▼ 下心にまみれたアイツら 1/2
「胸デカくなったんじゃねーの?」
例によって団子片手に見廻りという名のサボりを働いた私は、これまた例によって気配を消して背後に立つ元カレに思い切り胸を鷲掴みにされた。突然の出来事にも狼狽えることなく問答無用で背負い投げをすれば、いてて、と大袈裟に痛がってみせる元カレを睨みつけた。
「ストーカーだけじゃ飽き足らず、今度は痴漢まで働くようになったのか」
「いやだから、胸デカくなったんじゃねーのって」
「だとしたら嬉しいけど触る必要はねーだろ」
「触んなきゃ真意の確かめようがねーだろ?」
話していても埒があかない上に本人は割と本気で私が咎める理由を理解していないのだから、これ以上全蔵に構っている暇はない。踵を返して歩き出した私にオイ!と声を出して私を呼び止めた。
「なんだよ!うるせー男だな」
「なまえ、よかったな」
「何が」
「胸、デカくなったんじゃねーの」
「しつけェェェェ!!!!」
げしっと全蔵のケツに蹴りを食らわせふんっと鼻息を吐いて踵を返すと、視線の先にいた間の悪い男に私の顔から表情が消えた。視線の先のその男、もとい私の彼氏は少しばかり驚いたような顔で私と全蔵を見比べて、また私へと視線を戻した。
「なまえ、お前……」
「銀時、これは…」
「胸、デカくなったのか!?」
「そっちかいィィィィィ!!!」
どびしっと音を立てて銀時にチョップを入れるも、動じることなく目をパチクリさせたままおもむろに私の胸を鷲掴みにした。そしてすぐにジト目で全蔵に視線を移す。
「なってねーじゃねーか、腐れ忍者!」
「いや、なってる。元カレのこの俺が言うんだから違いねェ」
「いやいや、なってねェ。今カレの俺が言うんだから…って何テメー人の女の乳揉んでんだよ!!!」
「だからおせーよ!!!つーかデカくなってねーって腹立つなぁ、オイ!!!」
銀時の腕をばしっと振り払ってその場を離れようとする私に「待て待て」とニヤついた顔の銀時が今度は私の肩を組んだ。
「…なまえ、海いかねェ?」
…………海?うみ?ウミ?
「何それ?」
「えっ、お前、海知らねーの」
「ウンコ侍、こいつが海なんか知ってるわけねーだろ。つーわけでなまえ、俺と海行かねーか」
「何でお前しれっと誘っちゃってんの?つーかいい加減に諦めてくんない?!ストーカーすんのやめてくんない?!」
「いやだから何、そのうみって。何なのそれ」
なぜかでれっと嬉しそうな顔を向ける二人に、私は眉を顰めた。何だよ!教えろよ!気分わりーな!!私がイライラしていることに気付いたのか、二人は慌てて取り繕い始めた。何か知らねーけどすんげー怪しい。
「大丈夫、お前絶対あーいうの好きだから!銀さんが保証するから!」
「そもそもテメーそんな金どこにあんだよ金欠侍!」
「え、じゃあ何。お前も連れてったら旅費出してくれんの」
「あァ?!金出すの俺なら俺が主催だろ!?テメーがオマケ側だろ!?」
「はァ?!つーかこいつ俺の彼女なんですケドォ?所有権俺にあるんですケド許可出してないんですケドォ??!」
私の意見そっちのけでいがみ合う二人に心底呆れてため息が溢れる。それにしても、うみとは。何だ、気になるぞ!!それが一体何なのか想像も出来ずに少しだけ期待に胸が膨らみ出した。
「…ねぇ、そのうみって、なに。美味しいの?楽しいの?」
「「視覚的に美味しい」」
「…ふーん。じゃあ考えとくよ」
いつまでもこのバカ二人組に構っている暇はない。それだけ言い放ちくるっと来た道を戻る私の後ろからはやったー!とどちらからともなく喜びの声を上げている。
「なまえ!銀さん黒が好きだから!」
「バカオメー!なまえ、全さんは白が好きだぞ!」
突然好きな色を叫び出す二人をシカトして、私はまだ見ぬうみとやらに想いを馳せていた。
…うみって何なんだろう。月詠は知ってるのかな、行ったことあるのかな。…気になるぅー!!!
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