▼ かっちゃんには程遠いアイツ 1/2
「入院んんん!?!」
屯所内だと言うのに、私は人目も憚らず大きな声を上げてしまった。気付いた時には、何事かと月詠や団員がこちらに目を向けてきた。慌てて声を潜め、耳に携帯を押し付けた。「わかった、うん、…わかった」と簡単な状況と入院先を聞いた私はすぐに電話を終わらせた。
「なまえ、どうしたんじゃ?何かあったか?」
「いや、うん…何か銀時が入院したみたいで」
「入院!?銀時が!?何でまた…」
「なんかよくわかんないんだけど、乗ってたバイクが爆発して地上30メートルから川に落下したらしい」
「あやつは一体何をやっておるんじゃ…」
本当にね、と肩を竦めすぐに手を止めていた書き仕事に目を落とした私に、団員たちは心配そうな表情を向けてきた。
「副頭、行かなくっていいんですか?」
「いーのいーの、私が行ったって治るわけじゃないんだし」
「…しかし、」
「いーのいーの、毎回仕事抜けてアイツに構ってらんないのー」
相変わらず視線を落としたままペンを持つ私に、これ以上言っても無駄だと諦めたように、団員たちは散り散りに持ち場への戻っていった。煙管を咥えた月詠は、私の横に腰を下ろしてわざとらしくため息をついたり、チラチラと私の顔色を伺い始めた。
「あ、あー…わっちとしたことが…あー困るな、あれがないと…困りんした」
「何だよ月詠、うるせーよ」
「なまえ、ぬし暇か?ちと使いを頼まれてくれなんだか」
「いや暇じゃないよね、いま書き仕事してるよね」
「あーもう、素直になりなんし!って先ほどから筆が進んでいないどころか、何どさくさに紛れて銀時の似顔絵描いておるんじゃ!!!」
「…チッ」
「舌打ちをするな、心配は無用じゃ。ぬしの仕事は夜に回しておくから、行ってきなんし」
吉原一空気の読める女は、さすが気の使い方がうまい。ニッと口角を上げる月詠の笑顔に負けて、お礼を言うと足早に屯所を離れ、電話で聞いた入院先の大江戸病院までへの道を駆けた。
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「そんで、なんでお前がここにいるの」
私の前には見覚えのある赤縁眼鏡に泣きぼくろの女が面会受付にしれっと座っている。まさか転職したわけでもあるまい、始末屋の仕事の一環なのかくいっと眼鏡を上げた猿飛はふんっとわざとらしく鼻息を吐いた。
「どーせ銀さんのお見舞いにきたんでしょ!残念ね、銀さんはもう退院したわよ。今は私の家のベッドにいるわ!私が毎晩看病す」
「うっせーよエロ眼鏡!いいから早く部屋番号教えろ!茶番に付き合ってる暇はないの!」
「本当に可愛くない女ね!部屋番号は401の一番奥のベッドよ」
「ありがとさん」
面会者用のバッジを胸元につけて受付を離れた私は、ほくそ笑む猿飛の表情に全く気付かなかった。エレベーターを上がり401号室にたどり着いた私は、不安げに部屋へと足を踏み入れた。入院なんて、よっぽどの怪我でもしてるのか。全く心配ばっかりかけやがって。一番奥のベッドはカーテンがかかっていた。私は勢いよくカーテンを引き開ける。
「よー、愛しの彼女がきてやっ…た…ぞ?」
「よォ、愛しのハニーちゃん。待ちくたびれたぜ」
ベッドに寝そべっていたのは、銀髪のバカ彼氏…ではなく、ヒゲヅラのアホ元カレである。片手を上げて笑顔を向ける元カレに踵を返して私はカーテンを閉めた。
「間違えましたァ」
「ちょ、待て!」
カーテンの隙間からベッドを覗き込み「何してんだてめー」と睨みつけると、いいからいいから、と言わんばかりに手招きをする全蔵。仕方なくもう一度カーテンを引き、ベッドの傍へと近づいた。
「まさかお前さんが見舞いに来てくれるたァな」
「いやあのド近眼女にハメられたんだよ」
「お、ジャンプじゃねーか、気が効くなァ」
「これはお前に買ったもんじゃねーよ!つーか銀時は!?本当に退院しちゃったの!?」
「おま、怪我人におでんて、バカだろ、ぎゃぁああぁ!」
…隣のベッドから聞き覚えのある悲鳴が聞こえて、慌てて隣のカーテンを引いた先にあったのは、銀時に跨がりおでんを食べさせようとしている猿飛の姿だった。
「…ま、間違えました」
「なまえちゃん助けてェェェ!!!」
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