Ichika -carré- | ナノ


▼ 「バカの周りはバカ」を体現するアイツ 1/2



約一週間振りの非番の日、私は地上に上がり銀時と待ち合わせをしていた。今日は地上巡りと銘打ったただのデートである。


「よっ」

「おう」


なんて色気のない声を出し合いながら、並んで歩く私たちの間の距離が何だかもどかしい。初めてのデートというわけでもなければ、身体を知らない関係でもない。それなのに、何故か日中というだけで、気恥ずかしさがあるのは、私が吉原の人間だからだろうか。


「何ソワソワしてんのお前」

「いや、何かやっぱり地上の昼間って緊張する」

「緊張してんの?キモイね」

「シバくぞ、天パ野郎」


そうして到着したここは、バトルロイヤルホストという名の食事処。混み合ってる店内に、私はワクワクする気持ちを抑えきれずに満面の笑みで飛び込んだ。


「なァ、本当にここでよかったの?」

「何で?むしろここがいい!ずっと来たかったの!ふぁみれすとやらに!!」


意気揚々と言い放つ私に、銀時はあっそう、と呆れて笑った。吉原は飲み屋こそ腐るほどあるが、このような和洋折衷が一つになった食事処がない。団子屋には団子しかないし、蕎麦屋には蕎麦しかない。もっと言えば洋食屋なんてものは吉原には一件もない。何度か全蔵が差し入れてくれたものしか食べたことがなかったのだ。


「うわ、メニューめっちゃあるじゃん!すげー!」

「すんげー田舎者みたいで恥ずかしいからやめてくんない」

「銀時!!これ何、何これ!」

「あのさ、聞いてる?…これはパフェだよ、パフェ!」

「私ぱふぇにするー!!!ヤッホゥ!」

「なまえちゃん?キャラ崩壊してますよ〜?」


慣れた雰囲気で店員を呼ぶ銀時が何だかとてつもなく大人に見える…!不思議だ、ふぁみれすとやら。通りで店内は人がごった返しているわけだ。


「いや、昼時だから。つーか安いから、大衆食堂だから、ここ」

「お前らいつもこんなもん食ってんの?侍なら質素な生活を送れよ」

「…どっかで聞いたことあるセリフだな…」


いつになくテンションが高い私に、珍しく銀時の方が終始呆れ顔だ。程なくして到着したパフェを見て、私のテンションは最高潮に達した。


「銀時…!!」

「何だよ」

「何これすごい…!アイスクリームと生クリームが乗ってる…!すんげー贅沢!」

「こんなんでそんな喜んでくれんのお前くらいだよ」


いただきまーすと声を上げながら、私はキラキラと輝くパフェを頬張った。チョコがけの冷たいアイスクリームに、イチゴにバナナ。たまに生クリームを摘む。何なんだ、これ、うますぎる!いつも食ってる団子が、ウンコか何かに感じるくらいうまい!


「あー生きててよかったー」

「オイ、口付いてんぞ」


私の口元に指を伸ばし、ちょいっと口元を拭った銀時は、生クリームのついた指をペロリと舐めとった。普段だったらやめろ、と怒るところだが、今日のところは許してやろう。…と、ふと窓の外から感じた視線。黒い服を着た二人組が引き攣った顔でこちらを覗いている。


「…ねぇ、銀時。アイツら知り合い?」

「んー?…って、うわ!何でこいつらここにいんだ!」


その二人を見るなり、銀時はあからさまに嫌な顔をした。何だ、やっぱり知り合いだったのか。その二人組はいなくなったかと思いきや、店内に入ってくるなり私たちの元へとやってきた。一人は黒髪の目つきの悪い男、もう一人は中性的な顔をした美形の少年。


「昼間っからお熱いこって。なァ総悟」

「旦那ァ、デートですかィ」

「そーだよ、見てわかんだろ」


ニヤニヤと笑いながら銀時に話しかける二人組。別に仲が悪いわけでもなさそうだが、どうもいけすかない。特にこの黒髪!人が飯食ってるっつーのにタバコ片手に乱入してきて何なんだ、誰なんだお前。


「見ねェ顔だな」

「おにーさんタバコくせーよ。つーかなんだその目、瞳孔開いてるけど大丈夫?」

「んだとテメェェェェ!!!」

「前髪も…何それ、V字になってるよ?寝ぐせ直し貸そうか?」

「旦那の彼女ですかィ?中々見る目のある女でさァ」

「そーでしょ、総一郎くん。いい女でしょ?ほらニコ中は食事の邪魔だから、帰った帰った」


「テメーら全員切腹だァァァァァ!!!」





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