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「何で私お前と二人で家でゲームしてんだろ」
「そりゃお前、カップル一歩手前だからな」
「一歩手前なのに随分距離がちけーな」
結局二人でテレビに向かいゲームをする私たちは、目線はテレビに移したまま笑い合った。変わらず銀時は私の膝の上に寝転がってコントローラーを握りしめている。
「つーか足痺れてきた。交代して」
「おー」
のそのそと起き上がり胡座をかく銀時の膝に、私は寝転がって頭を乗せた。暫く例によってストツーをやっていたわけだが、何だか目がしぱしぱしてきた。そーいや疲れてたんだったなぁ。明日も仕事だしそろそろ寝たいなぁ。…ていうかこいつ何しに来たんだ。
「銀時ぃ、眠いんだけど」
「あ、そう?つーかお前明日仕事なの?」
「そーだよ、昼からだけど」
「ふーん。じゃ昼までは一緒にいれるわけだ」
「そーだね、……ん?え、うち泊まんの?」
「えっ泊まんないとか選択肢あんの?じゃあ何お前、俺ゲームだけしにきて帰ると思ってたの」
「……」
言われてみればそうだけど。前回は何だかんだ有耶無耶になったお泊りが、今夜実現することになるとは。テレビから銀時に視線を移すと、何やらニヤニヤといやらしい表情を浮かべている。ジト目で見上げていると、額に小さくキスを落とした。
「布団敷けば」
「……そーするわ」
…ダメだ、やっぱり何か緊張する。勢いよく起き上がり押入れから布団を引っ張り出した。この長屋にはこの部屋以外にあと二部屋ほどあるのだが、行き来が面倒なのでこの15畳ほどの部屋で食事をして、寝泊まりをしている。本当に無駄に広いだけの長屋だ。二つ布団を敷いたところで、銀時が不満げな声を上げた。
「ってオイ!何で布団二つ敷いてんだよ!」
「は?!だってお前泊まるんじゃないの!?」
「泊まるけど!?一緒の布団で寝りゃいいだろ!」
「……はっ!?!」
掛け布団を引っ張り出していた私は銀時の言葉に思わず固まった。一緒の、…布団!?
「は、やだよ!何でだよ!」
「お前、この前言ってたこと忘れたのかよ」
「この前?…って何、何言ってたの」
「風邪が治ったら、一発ヤらせろっつったろ」
…………はっ!!!
とんでもない何かを忘れていると思っていたが、銀時の言葉で忘却の森に迷い込んでいた記憶が、私の脳内へと舞い戻ってきた。固まったまま動けない私の元へ、ゆっくりと銀時が近づいてきて徐に私の腕を掴んだ。
「いつまでも我慢強い銀さんじゃねーからな」
と次の瞬間、私は布団の上に押し倒されていた。突然の展開に私はあからさまに動揺した。いや確かに風邪が治ったらとか何とか言ってたけど、…いや待てよ。
「考えとくって言っただろーが!」
「こんな夜更けに年頃の男連れ込んどいて、考えとくも何もねーだろ!」
「お前が押しかけてきたんだろーが!つーか何が年頃じゃ!中年間近の脂男のくせに!」
「おま、俺のどこが脂男だ!?脂の乗ったいい男の略か、それ?!!」
「脂ギッシュな臭男の略だ!」
私に跨ったまま眉を吊り上げてやんややんや喚く銀時を、必死に退かそうとするも敵わない。そんな抵抗も虚しく、銀時は私に覆いかぶさって唇を重ねてきた。頬を押さえられて身動きの取れない私は、もはや抵抗することもできずにそれを受け入れた。荒っぽいようで優しい唇の動きに、私の心臓は壊れたようにうるさく鳴り響く。熱く湿った柔らかい舌が、私の口内を侵して動き回る。舌を捉えればねっとりと絡ませるその動きに、図らずも小さく吐息が漏れた。
「…ッ、ん…」
息が持たずに銀時の胸を叩くと、ゆっくりと離された唇からは透明の糸が繋がって、それが何とも厭らしい。眼前の銀時は、随分余裕がなさそうな表情をしていて、心がギクリと音を立てた。襟元に銀時の手が伸びてきたところで、私は声を上げて制止した。
「待っ…銀時、待って!」
「んだよ、…そんなに俺とすんの嫌なの」
「いや、そうじゃないけど…」
「バカ忍者とはするのに?」
「いやだから、そうじゃなくて…」
不満そうに唇を尖らせた銀時に、私は少しの罪悪感が芽生えた。確かに、私は発言と行動が伴っていない。その自覚はある。銀時を弄んでいるように見えてもおかしくない。だが、それは真実ではない。私だって色々真剣に悩んでいるのだ。…だけど確かにいい加減正直に私の気持ちを話さなければ、いよいよ愛想を尽かされてしまうかもしれない。私は意を決して、重い口を開いた。
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