▼ 狼の皮を被った羊はアイツ 1/3
仕事を終えて、月詠と二人でしっかり家事手伝いをした晴太にチョコレートを渡しにひのやへ訪れた。いずみちゃんからチョコをもらったと自慢気に話す晴太に癒されて、私たちはそれぞれ帰路に着いた。
「あー疲れた…」
長屋に着いた私は、玄関を上がるなりその場へ倒れこんだ。病み上がりの仕事はやはり疲れる。帰宅すればいの一番に風呂に向かう私も、身体の重さからその場を動くことができない。ふと袂からラッピングされた小さな小箱が転がり出した。
「あ、全蔵に渡すの忘れてた」
ま、適当に時間があるときに連絡すればいっか。ずりずりと腹這いをして居間へ向かう私の袂から、小さな振動を感じて、ゴソゴソと取り出した携帯を開くと、画面には「万事屋 銀ちゃん」の文字が。
「はいはい」
『おーもう仕事終わったの』
「んー今家着いた。どーした」
『どーしたって。今日行くっつったろ』
「…はっ!!」
『おま、忘れてやがったな!こちとら準備万端でいつでも行けるよーにしてたっつーのに!!』
「ごめん、普通に忘れてた。じゃあ準備しとくから、もう来てもいいよ」
『んじゃ、今から向かうわ。ちゃんと綺麗に洗っとけよ、色々と』
「…うん?わかった」
終話ボタンを押しながら私は首を傾げた。何だ、色々綺麗に洗っとけって。どーいう意味だ。いつも汚ねーみたいな言い方じゃねーか。…それにしても私は何かとんでもないことを失念している気がする。何なんだろう。思い出せない。起き上がり重い身体を引きずりながら、風呂場へと向かった。
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「帰ェったぞー」
「だからお前んちじゃねーだろ!」
「俺んちみてーなもんだろ」
相変わらず図々しい態度の銀時が、うちに上がるのは全蔵のことでプチ喧嘩をして以来。てことは、随分と久しぶりということになる。例によって手土産の団子を差し出す銀時に、私は何だか気恥ずかしさを感じた。
「今日は飯食ってきたから」
「あ、うん」
……何だこの新婚生活みたいな会話!いや会話の内容は新婚というより、冷め切った熟年夫婦みてーな会話だけど!何なの、この感じ!めっちゃこそばゆいんですけどォ!?勝手に座布団を引っ張り出して、腰を下ろす銀時は、どこか嬉しそうな浮ついたツラで私を見つめる。
「…何だよ」
「ま、いーから隣座れよ」
「何で隣だよ!向かいでいいだろ!」
「はァーん?なにお前、緊張してんの?百華の副頭領ともあろうお方が?好きな男を前にして緊張しちゃってんのォ?」
「その手には乗らねーぞ!つーか私ちょっとゲームやりたいから、適当にくつろいでて」
「お前、本当に色気のねェ女だな…」
缶ビールを片手にゲーム機をセットしてテレビの前に座り込む私に、銀時はドン引きした表情を向けてくるが、シカトだ。家に帰ったら、どんなに疲れてても一日一時間はゲームをやる。これは私の決まりごとなのだ。コントローラーを片手にテレビに向かう私にため息をつきながら、銀時はのそのそと近寄ってきた。と、思いきや胡座をかいた私の膝の上に、あろうことか頭を乗せて寝転がった。
「な!おま、…どけ!」
「ちょっとくらいいーだろ。久々に二人きりなんだからよ」
嬉しそうに微笑みながら私を見上げる銀時に、それ以上文句を言えずに、私はすぐに銀時から目を逸らして、テレビに向かった。私としたことが、なぜか緊張している。銀時ごときに、余裕を奪われている。…解せない…!そんなことを思いながら、私は気を紛らわそうと、ゲーム内で道中のモンスターを狩り続け、しばらく銀時の頭を預かっていた。
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