Ichika -carré- | ナノ


▼ 2/2



「頼もー!」

「ぬし普通にノックできんのか!」

「た、の、もー!!」

「何で少し喧嘩腰なんじゃ!」


万事屋に到着した私たちは、人んちの玄関の前でギャーギャーと喚き散らした。すぐに中からドタバタと足音が聞こえてきて、ガラッと戸を開いたのは、神楽だった。


「なまえ!ツッキー!まさか、アレ渡しに来たアルか!?」

「そーだよん。おたくのバカ社長はいるかしら」

「中にいるネ!…ずっと朝からソワソワしてたアル」


入るヨロシ!と神楽に促されて、部屋に上がった私たちの目に飛び込んできた光景に、一瞬…いや二瞬は固まってしまった。ソファに座る、オールバック・スーツ姿のバカ社長。その隣にはまるで売れていなさそうなミュージシャン風のバカメガネ。


「お、なまえに月詠。どした、死神コンビが揃いも揃って、何か用か?」

「珍しいですね、二人が地上にくるなんて。何か事件でもありましたか?」

「お邪魔しました」

「なまえ!ツッコんであげなんし!」


我に返った私は踵を返して帰ろうとするも、月詠に首根っこを掴まれて阻止された。仕方なしにバカ二人の向かいのソファに腰を下ろして、小さな紙袋を銀時に手渡した。


「これ、やるよ。…バレンタイン」

「ィヨッシャー!!!!」

「うっざ!なんだお前そのテンション!!」

「お前渡しに来なかったら、吉原までかちこみにいこーかと思ってたわ!」

「何で貰える前提なんだよ!」


大袈裟にガッツポーズをする銀時に、私は呆れたものの、予想以上の喜びように何だかあたたかい気持ちになった。チョコあげるだけで、こんなに喜んでくれるなんて、可愛い奴め。ヒャッホー!と声を上げる銀時に、月詠もおずおずとチョコレートを手渡した。…何でこいつの方が緊張してんだ。


「これは、わっち…いや、百華からじゃ!日頃の感謝を込めて…」

「マジでか!?お前やっぱいいヤツだなァ、このこのォ」

「わっちからじゃないぞ!百華の代表で、今日渡しに来たたけじゃ!」


こいつ結局百華からってことにしてやがる。…私なんかよりよっぽど告白をしているかのように顔を赤らめている月詠に、私は内心複雑な気持ちになった。しどこか見ないようにしていたそれを、突きつけられたそんな気分。当の銀時は全く気にもしていないようだが。それはそれで、何とも言えない気持ちになる。と、そこでようやく新八に熱い視線を送られていることに気付いた。


「……」

「「はっ!!!」」

「…いいんです、いいんですよ。どうせ僕は姉上からしかもらえませんよ、…どうせ忘れられてる存在ですよ!」


…新八の存在をすっかり忘れていた。私だけならまだしも、あろうことか月詠まで新八の存在を忘れていたようだ。年頃の男の子に、何とひどい仕打ちだ。


「ごめん、新八。本当に忘れてた」

「新八、すまん…あ、これ神楽にとひのやで団子を買ってきたんじゃ。た、沢山あるから食べなんし」

「マジでか!?ツッキー、これ私にくれるアルか?!」

「そーそー、どうせなら手土産でもと思って買ったんだけど。ごめん、新八今日は団子で許して」

「もしかしたら、おこぼれでもらえるかも、なんて思ってた僕がいけないんです。期待してた僕が…」


うぅ、と顔を覆う哀れな新八にもう一度謝罪をして、用が済んだ私たちはすぐに立ち上がった。


「じゃ、帰るわ」

「はァ!?もう帰んの?これ渡しに来ただけ?」

「そうじゃ。わっちらはまだ仕事が残っておる。万年ニートのぬしと一緒にするな」

「次は休みの日にくるヨロシ!!」


団子を両手に握る神楽の頭を撫でて、万事屋を後にしようと玄関に向かった。本当に何とも可愛げのない行動だが、二日も続けて団員だけを残し百華のツートップが吉原を離れるなど、褒められることではない。何かあってからでは遅いのだ。


「わざわざありがとな。美味しくいただくぜ」

「大したものじゃありんせん。気にするな」

「じゃーな、銀時」

「…って、なまえ」


玄関の戸を閉めかけたところで、銀時はぐいっと私の腕を引っ張った。そしてこそっと耳打ちをした。


「今日、そっち行くから」

「…は?!」

「こないだの約束、忘れたとは言わせねーよ?」


約束ぅ?何の話だ?よくわからないが、適当に頷いてみせると、銀時はニンマリと笑みを浮かべた。そうして、万事屋を後にして、私たちはまた吉原へと降り、各々残った仕事に取り掛かった。
…バレンタインというのも、別に大した行事ではないのだと、この時まではそう思っていた。





prev / next
bookmark

[ back to main ]
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -