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「貴様、この携帯が目に入らぬか!頭が高ーい!控え、控えおろーう!」
すっかり夕焼けが広がる地上の空は、やはり地下から見るより広くて気持ちがいい。その夕焼けを背に、万事屋の玄関前の柵に座り込んだ私は自慢げに"ハイカラなカラクリ"を銀時に見せつけた。向かい合わせるように戸にもたれる銀時の頬は少しだけ緩んでいる。
「お前さ、結構俺のこと好きだよね」
「……はぁ?何でそうなんの?死ねば?」
「まさかソッコー買いに行くとは思わなかったわ」
「ちが、これは、月詠が…!」
「ハイハイ」
くっくっと口に手を当て笑う銀時に、私はかぁっと顔が熱くなるのを感じた。いや、言い訳させろ!あれから月詠は全く乗り気じゃない私を完全無視して、わざわざ地上の電気屋に足を運び、あれよあれよと言う間に契約してしまったのだ。しかもなぜかどさくさに紛れて、月詠も同じ携帯電話を契約していた。本当になぜだ。
「月詠が黒で、私が赤なの。まさか私がこんなもの買う日が来るとは」
「よかったな、これで毎日俺と電話できんじゃん」
『♪』
「ん?何かきた」
銀時の言葉を無視して、パカッと携帯を開くと画面には新着メールの文字が。全然説明を聞いていなかったせいで、使い方がわからない。銀時助けを求めると、呆れながらもメールを開いてくれた。が、画面を見た銀時は、そのまま動かなくなってしまった。
「……」
「…え?何?」
「何か、…お前ら楽しそうだな」
口元を引きつらせた銀時にハテナマークが浮かぶ。携帯の画面を覗き込み、そのメールを見て私も顔を引きつらせてしまった。
【 from:月詠
sub:初メール☆
今吉原に着いたぞ(^-^)/ぬしは無事万事屋に着いたか?返事をよこせV(^_^)V 】
「…あいつ、メールだとこんな感じなの?イメージ壊れすぎてるんだけど」
「いや俺に聞くなよ!つーか最後の偉そうな言葉と顔文字全然合ってねェよ!!」
「えーと、返事、返事…」
必死にボタンを押しながら文字を打ち込む。大した内容でもないのに、随分時間がかかってしまった。そしてようやく送れたメールを銀時に見せつけた。
「どうだ!」
【 To:月詠
sub: Re:初メール☆
ついた((((;゚Д゚))))))) 】
「何で怯えてんだよ!?一体何に怯えてんの?俺になんかされたみたくなってんじゃねーか!!」
「いや一番最初にその顔文字出てきたから…」
「あーもう!誤解されんだろ、貸せ!」
そう言って銀時は私から携帯を奪い取り、これまた時間をかけて文章を打ち込んでいる。こいつもアナログ人間なんだ、それは全然意外じゃない。だって私と同じ匂いがするもん。そうして銀時も無事にメールを送れたようで、バン!と画面を向けてきた。
【To:月詠
sub:さっきのメールは間違いです。バカ】
「ってオイ!バカってなんだ、バカって!?何突然喧嘩売ってんだよ!!」
「バカだから間違えちゃいましたって打とうとしたのにこれ以上打てなかったんだよ。だからそのまま送信した」
「いや、打てなかったからって、お前が文章作ってるとこ、題名だからね!文字数少ないに決まってるよね!?つーかバカはテメーだろ!!」
「うっせー!お前だって満足に操作できてねーだろーが!!」
送ったメールをどうにかキャンセル出来ないかといじくってみたものの、どうやらそのような機能はないみたい。慌てて月詠に電話をかけると『バカは何人揃ってもバカのままなんじゃな』なんて笑われてしまった。…あの月詠にバカ呼ばわりされるなんて。私と銀時は目を合わせてため息をついた。
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