▼ デジタルなアイツ 1/3
『お前、携帯電話買えば?』
昼ご飯終えた私は、電話越しに聞こえる呆れたような声に苦笑いを浮かべた。屯所の置き電話を私用に使うなど、普段は許されることではないのだが。かれこれ二週間ほど銀時に会いに行くどころか、連絡すらとっていないことを百華のやつらに咎められて、促されるままに万事屋に電話をかけている次第だ。
「手続きとか面倒くさいし、第一お前以外連絡取るやついねーし」
『俺だけでいいだろ、つーかそれ以上の理由ねーだろ』
「まぁそうだけどさぁ」
『つーかさ。お前ずっと連絡もよこさねーし、会いにもこねーし、何してんの』
「いや仕事だけど。私お前と違って忙しいから」
『言っとっけどなァ。いくら付き合ってねーからって、他のヤローとしっぽりしてやがったら許さねーからな。特に、どこぞのバカ忍者な!』
「私はそーいうことするタイプじゃねーし。銀時、お前もせいぜい女関係には気をつけることだね。私そーいうのマジ無理だから」
と、なんとも中身のない会話をして早々に受話器を下ろすと、盗み聞きしていたであろう団員たちが部屋に飛び込んできて、私を囲い込んだ。
「副頭!何なんですか、いまの会話は!」
「何って。あんたらが電話くらいしてやれって言ったんじゃん」
「そうじゃないですよ!いまのやりとり、完璧に彼氏彼女のするそれですよ!副頭、救世主の旦那と本当に付き合ってないんですか!?」
「…付き合ってない」
はぁ!?と団員たちが驚愕の表情を浮かべていると、一人がサッと何かのカタログを手渡してきた。
「これ、最新の携帯電話のカタログです!もし副頭が買いに行くのが面倒なら、私たちが行きますんで、いつでも言ってください!」
そんな嬉しそうな顔で渡されたら、断るにも断れねーじゃねーか。渋々受け取ると、満足したように団員は散り散りに部屋を去っていく。…何と仕事が早く出来のいい部下を持ったんだ、私は。そんなことを思いながら机の上の書類を横に寄せて、渡された携帯電話のカタログをパラパラとめくってみた。何だか知らないが、様々な商品があるみたいだ。携帯というのは、ただの携帯型電話機じゃないのか。電話が持ち歩けるってだけで十分だというのに、それにあれやこれやと機能がついていたって、使いこなすことなんて到底できそうにない。早々に読むのを諦めようとした時、見回りから戻った月詠が部屋に入ってきた。
「只今戻りんした…ってぬし、何を見ておるんじゃ」
「おかえんなさーい。あー、うん、何かみんなに勧められてさ、…携帯電話」
「携帯電話?」
「んー。銀時と連絡とってないって言ったらあいつらギャーギャーうるさくてさ。さすがに毎度毎度ここの電話使うわけにもいかねーし、まぁアリかなって思ったんだけど。見ても全然わかんないや」
「どれどれ」
私の横に腰掛けた月詠は、カタログを覗き込んで何やらふむふむ言いながら、ページをペラペラとめくっている。ていうか、私が意味わかんないんだから、月詠にわかるわけ…
「これが写真が撮れる携帯で、こっちはGPS機能がついた携帯。こっちは、…何と画面タッチ式の携帯!そしてこれは…」
「ちょ、ちょっと待って!え、何?お前いつもボケキャラなくせに、こういうのは意外と得意なの!?」
「何を言っているんじゃ、ぬしは。今時携帯電話など子供でも持つ時代じゃ!それくらいの知識、わっちにだってありんす」
「…あ、そう。…そうなんだ」
わっちはこんなハイカラなカラクリ、興味ありんせん!とか何とか言われるかと思ったのに、意外すぎて私は思わず顔を引きつらせた。そんな私をよそに、よし!と声を上げた月詠は、私の手を掴み勢いよく立ち上がった。
「行くぞ、なまえ!」
「え?どこに?!」
私を引っ張る月詠の力が何だか怖くなって、足に思い切りブレーキをかけるも、月詠は気にも留めずズンズンと歩き出した。そして振り返った彼女は、とてつもなく嬉しそうな笑顔だった。
「携帯電話、買いに行くぞ!」
「…えっ!?!」
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