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「「はぁぁ!?!」」
あれから銀時と別れて、吉原に降り家に帰る前にひのやに寄ると日輪と月詠が団子をつついていた。そこに混ざり先ほどの銀時との出来事を報告すると、二人はあんぐりと口を開いて、手に持っていた団子をぽとりと落とした。
「あんた、それでも遊女出身なの!?」
「いや、私お座敷上がってないし」
「…それで、銀時は何と言っていたんじゃ」
「その気になるまで待つって」
「あんたたち、意外と純なのね」
「うっせー!…だってさぁ、うまく言えないんだけど、何ていうか。大切にしたいんだよ、こういう気持ちを」
「いやー、あんたもう月詠のことウブとか言えないわよ?私からしたらなまえもウブどころかアマちゃんね」
「ま、何はともあれ、うまいこといったようで安心しんした」
ちらりと月詠の表情を盗み見すると、本当に心底嬉しそうな顔をしているから、私は少しだけバツが悪くなった。そんなに喜んでくれるなら、もっと早くこうしておけばよかった。月詠の幸せの為だなんて、私はそんなできた人間じゃない。だけど、月詠が笑顔がいてくれるなら、もう何だっていいのだ。私がいつまで経ってもうじうじしている方が失礼な話だ。月詠がこうあることを望むのなら、私は素直に銀時にもたれればいいのだ。
「だとすると、服部とやらとは片が付いたのか?」
「…いや、それなんだけど、うん…」
「あんたねぇ、そういうところこそちゃんとしなくっちゃダメよ。銀さんにも服部さんにも失礼じゃないの」
「全蔵には戻る気ないって伝えたし、銀時のことをどう思ってるかも、ちゃんと言ったよ。…でもだからってすっぱり切り捨てることも出来ない。私は全蔵に本当に感謝してることばっかなんだよ。ウザいししつこいしストーカーだけど、全蔵のおかげで私の今があると言っても、過言じゃないから」
私はため息をつきながら、地面へと視線を落とした。二人は私の言葉に、うーんと唸り声を上げて黙りこくってしまった。本当はわかっている。こんな気持ちでいるから、全蔵はいつまで経っても私から離れられないんだと。暇つぶしだったり、付きまとうのが面白くなってる部分が大半だとは思うが。
「確かにぬしは服部と一緒にいるようになってから、よく笑うようになりんした。わっちはその時のことをよく覚えている。深い闇に包まれていたぬしを照らそうとしていたのは、わっちだけじゃなかった。服部はぬしを本当に想っていたんじゃと、わっちでもわかっていた」
「でもね、なまえ。結局応えてあげられないのなら、その気持ちはただのエゴよ。時には切り捨てることも、優しさなの。わかるでしょ?」
「…ん、わかるよ」
「今すぐに切り捨てる必要はありんせん。人が変わるのには時間がかかる。ゆっくりでいいから、ぬしも服部も互い離れをすべきじゃ。ぬしが銀時とうまくやっていきたいのならな」
日輪の言葉も月詠の言葉も、どれもが正論で私は何も言い返すことができなかった。だからと言って、即答で全蔵を切り捨てる!なんて言葉も出てはこなかった。ただ、引っかかった言葉。
『応えてあげられないのなら、その気持ちはただのエゴよ』
『ぬしが銀時とうまくやっていきたいのならな』
私は頭の中のモヤモヤを消すように、空に高く登る太陽を見上げることしかできなかった。
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