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「よりにもよって、何でアイツなんだよ」
下ろした私の長い髪の毛先を、控えめにふわふわと触る全蔵に、もう文句を言う気も失せていた。ビールを飲み干して、いつの日かのように月を見上げた。今日は三日月。雲の少ない深い闇が広がる夜空に、綺麗な三日月がよく映える。
「アイツは何で俺の欲しがるもんばっか、盗ってこーとするんだ?俺に何か恨みでもあんのか?」
「欲しがるもんばっかって?他に何があんの」
「ジャンプ」
「お前ん中で私はジャンプと同じカテゴリーなのか?!」
口角を上げて笑う全蔵をジロリと睨んだ。
「いつどこにでも必ずあると思ってたもんが、いざ欲しい時になかったら腹立つだろ?」
「うまくまとめたみたくなってるけど、全然意味わかんないかんね」
「何もお前まで盗ってくこたァねーだろ…」
またもしょぼくれたような声を出して、ツンと唇を尖らせる。相変わらず髪をいじくる全蔵から離れると、名残惜しそうに全蔵の指は宙を二、三度摘むような素振りをして、すぐに拳を作った。
「全蔵、あんたには沢山感謝してることだってあるんだよ。でも、やっぱり無理、全然戻りたいとか思えない」
「じゃあお前、ジャンプ侍と付き合うの?」
「付き合うとか、そういうつもりはないけど。でもあいつのことが、何か、うん。…好きなのかもしれない」
「なに顔赤くしちゃってんの、そんなツラするんじゃねーよ、腹立つなァ!」
「うるせーよ、勝手だろ!」
咄嗟に全蔵に向けたはずだった拳は、くいっと腕を掴まれたことにより、だらしなく宙に向く。えっ、と声を出すより先に、私の顔は思い切り全蔵の胸に押し付けられていた。
「てことは俺がお前をどう思ってよーが、俺の勝手だよな?」
「…はっ」
そんな何とも身勝手なセリフを吐いて、私の髪にちゅっとキスを落として、全蔵は窓の外へと消えていった。私はその背中を呆然と見つめたまま、立ち竦んでいた。
…なんなの、どいつもこいつも。好き勝手やって、満足したら帰ってくの?…弄ばれてんのか?私は。
ぴしゃんと音を立てて窓を閉めた私は、全蔵の帰宅により一気に眠気が襲いかかってきて、ごそごそと布団に包まった。眠れなかったと嘆いた自分はどこへやら、すぐに夢の中へと落ちていった。
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