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ぶっきらぼうに二人分の団子を頼んだ銀時は、むすっとした顔で長椅子に腰掛けた。少し迷った結果向かいの長椅子に腰を下ろした私は、何も言わずにむくれる銀時に眉を顰めた。
「…何だよ?言いたいことがあんなら言ってくんない?」
私の言葉にギロリと視線を向けた銀時の口元は不機嫌そうにツンと尖っている。それを見た私は別に本気で何か怒ってるわけじゃなさそうだと、一先ず安堵した。
「お前さァ、さっきから誰のこと考えてんの」
私はその言葉にギクリと肩を揺らした。勝手に団子屋に連れ出したくせに、全蔵のことばかり考えていたのは確かだ。気まずくなって視線を落とした私の顎をぐいっと掴んで、銀時は私の瞳を覗き込んだ。
「テメェがどこの忍者のこと考えてたって構わねェけど、今お前と一緒にいんの、俺だかんな。それ忘れんなよ」
どこの忍者って、もうそれ一人しかいねーじゃん。私は素直に謝ろうとしたところで、ふと、この前起きた事件を思い出した。
「…銀時、あんた人のこと言えんの」
「あァ?」
「散々人のこと口説いといて、こないだ月詠の胸揉んでたよね」
「…えっ!いや、アレは…事故だろ!事故!」
私の言葉に銀時はあからさまに慌てふためいた。そう、先日地雷亜との戦いが終わった後すぐに、銀時が月詠の胸を揉むというハプニングがあったのだ。ハプニングというのは、俗に思いがけない出来事、とか予期せぬ出来事というときに使う単語だから、ここではその出来事をハプニングとは言わないのかもしれない。
「へぇ〜、事故ねぇ?同じ出来事が立て続けに二回もあるなんて、そんな偶然ありますかぁ?」
「げっ!お前、何で知ってんの!?見てたの?まさかお前見てたのォ!?!」
ちなみにこれは月詠が日輪に話したことを、日輪が私にこっそり伝えてきたのだ。女同士、それも幼馴染の私たちに、隠し事など皆無なのだ。顎を掴まれたまま同じようにツンと唇を尖らせると、銀時は一瞬驚いたような顔をして、すぐに顔を逸らしてクスクスと笑い出した。
「何ですかぁ?」
「何、お前…妬きもち?」
「…はッ!?!」
私は顎を掴まれたまま、目を見開いて硬直してしまった。見る見る顔の温度が上がっていく気がして、その手を振り払おうとしたのに、一向に話してくれる気配がない。ぐわっと私の眼の前まで銀時が近づいてきたと思いきや、心底嬉しそうな笑顔を向けてきた。
「はえーこと素直になっちまった方がいいんじゃねェのー」
「…は…、なっ…!」
「気付いてんのか、気付いてねェのか知らねーけど。案外そのやせ我慢、長続きしねェだろーな」
銀時の言葉はひどく曖昧で、それなのにまるで私の心の奥に直接ノックするかの如くの威力があった。何も言えずに口をパクパクする私をよそに、頼んだ団子が運ばれてきたもんだから、銀時は漸く顎を掴んでいた手を離した。
…何なの!?その俺はお前の気持ち知ってるけど、気づかないフリしててやるよ的な雰囲気は!?はァ!?いつ私がお前のこと好きっつった!?もしお前の壮大な勘違いだったらどうすんの?すげー恥ずかしい発言じゃない?!それ。いや逆に、絶対的な確信があるとか?え、私なんかそんな態度とってました?えェェェ!?
なんて口に出せるわけもない自問自答を、私はひたすら脳内で繰り返した。
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