Ichika -carré- | ナノ


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その報らせは突然訪れた。


「…非合法薬物かぁ。とうとう吉原にもそんなもんが流れてきちまったか」

「鳳仙が倒れて喜んでいるのはわっちらだけじゃないようじゃな」


先日から攘夷浪士共の蛮行に手を焼いていた私たちは、非合法薬物の売買を取り仕切っているとされる上客を張っていた。名は「羽柴 藤之助」と名乗る男だそう。足首の怪我も無事に快復した私は久しぶりの仕事に精を出していた。月詠と二人、標的が建物から出てくるところを私は見逃さなかった。


「行くぞ、月詠」


他愛のない話をする振りをして、その男とすれ違った。月詠がその男と肩をぶつけ、しれっと頭を下げた。


「申し訳ない」

「いや、こちらこそ」


すれ違いざまにちらりとその男の首元へ視線を送ると、そこには蜘蛛の刺青が彫られていた。何事もなかったようにその場を離れた。


「立派になったな。月詠に、…なまえ」





・・・・・・・




「お願い、吉原の救世主様」


一晩経って、ひのやに万事屋の三人を呼び出していた私と月詠、そして日輪は気だるそうな銀時を囲い、事のあらましを掻い摘んで話した。終始気乗りのしなさそうな銀時に、日輪が必死に説得をする。


「というわけで、お前ら二人は潜入班。私と神楽とメガネくんは情報収集班ね」

「え、お前行かねェの?」

「行かねーよ、天パ移ったらやだし」

「わっちも天パが移るのはちょっと…」


何となく銀時と二人きりになりたくなかった私は、有無も言わさずに指示を出す。これ以上距離を縮めてもいいことはない。さっさと銀時と月詠がくっついてしまえばいいのに。なんて私情が挟んでいることに気付いているのは、恐らく横で困ったように笑う日輪だけだろう。


「ちょっと気になることもあるし。私は吉原に残るから、早く行ってきな」

「へいへい」

「じゃあ僕達は先に聞き込みしてきますね!」


そうして二人を送り出し、聞き込みに行った神楽と新八の後を追おうとしたところで日輪に呼び止められた。


「なまえ、本当にいいの?あんたも一緒に行かなくて」

「いーの。お邪魔虫にはなりたかないの」

「全く、強がっちゃって」


日輪の言葉に肩を竦めて、ひのやを離れ聞き込みに向かった。…強がっていないと言えば嘘になる。だが、月詠の気持ちを知っている以上、これ以上銀時が私の心に入ってくるのを阻みたかった。恋沙汰というのは、簡単に関係を壊してしまうものだ。私が銀時を好きになってしまったら、きっと月詠を悲しませてしまうだろう。そんなことは絶対に避けたかった。


「ねぇねぇ、お兄さん。ちょっといーい?」


何人かに聞き込みをしていると、わかったことがあった。突然現れた一人の男に、闇組織の商売の在り方を変えられたということ。方々の闇組織の頭が殺されているということ。そしてその男が何者かは組織の幹部すらもよくわかっていないということ。そして。


「確かなのはたった一人で幾つもの組織を壊滅せしめた、その強さ」

「…強さねぇ」

「変幻自在の怪しげな術、そして化け物じみた強さ。あの男はその力で闇世界に瞬く間に巣を張ったんだ」


私はその言葉を聞いて、額に汗が流れるのを感じた。やはり、月詠に行かせたのは失敗だったか。いや、でもまさかその男に会えているかも定かではない。それに銀時もついている。万が一でも月詠に何かあるなんてこと…。


「…クソッ」


辺りはすっかり夕暮れ時。胸騒ぎの消えない私は二人が戻っていることを願って、ひのやへと急いだ。





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