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気だるそうにひのやの前に立つ銀時を捉えるなり、私の顔はまさに蒼白した。なぜ、こいつがここにいるんだ。今一番会いたくない男ナンバーワンのこいつが。ちらりと月詠に視線を送ると、驚いた顔をしているが、頬が少し赤くなっている気がする。あーもう、帰りてーよォ。
「銀さん!珍しいじゃない、今日は一人なの?」
「あァ、ガキ共はお通ちゃんのライブかなんかでいねェから、暇でさ」
「テメェも人のこと言えねェじゃねーか、邪魔ばっかしやがって」
「何、今ストーカーって流行ってんの?どっかで講習とかあんの?」
「まぁまぁ、みんなゆっくりしてってね、お団子準備してくるから」
日輪はとんでもなく楽しそうに笑って、私にウインクをして裏に入ってしまった。待って、日輪ちゃん!四人にしないでェェェ!!!仕方がなさそうに銀時は全蔵の横に腰を下ろした。…何この構図?何で団子屋で合コンしてるみたいになってんの?つーか何で誰も喋んねーの!!?
「なまえ、お前髪下ろしたりすんだな」
沈黙を破ったのは銀時だった。その言葉にみんなの視線が私に集まる。何だか気恥ずかしくなった私は自分の髪の毛を摘んで、曖昧に笑って見せた。月詠はそんな私を見てなぜか柔らかく笑いかけてきた。
「ぬしはやはり髪を下ろしている方が似合うな」
「そう?でも仕事中は邪魔だからさぁ。私も月詠くらい切ろうかなって思ってたんだけど」
「切る必要ねェよ。俺ァお前さんの髪を手櫛で梳かすのが好きなんだからよ」
「お前は二度と触れらんねェから安心しろエロ忍者!」
ビッと中指を立てて全蔵に向けると、全蔵はちぇっと舌打ちをした。はぁ、何だかやりづらい。何この空気。早く帰りたい。月詠は意外と冷静に煙管をふかしているし、銀時は片眉を上げてなんか笑ってるし。ていうかあんなことしときながら、何でお前普通に接してくんだよ!何だったんだよアレは!私は思わず銀時を睨みつけた。
「何だよ?」
私の視線に気づいた銀時はニヤニヤと笑みを浮かべながらわざとらしく首を傾げた。パッと顔を逸らして「何でもない」と呟いた私に、月詠と全蔵が驚いたような表情を向けてきた。二人の顔を見比べて、今度は私が首を傾げた。
「…何?」
「いや、何でもありんせん」
「…なるほどねぇ」
「え?何が?」
全蔵は唇を尖らせて、ふぅんと唸った。…何なの、こいつ?全てを悟ってますみたいなこの態度、腹立つんですけど!?月詠に勘付かれたらどーしてくれんの!?私は頭の中で何度も全蔵をタコ殴りにした。当の銀時はどこ吹く風だ。
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