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「何って、お前んとこのアホが」
「アホって…なまえがどうかしたのか?」
「オイ月詠!何でアホで私ってわかるんだよ!!」
げっそりとうな垂れていた私は月詠の言葉に、思わず銀時の肩口から顔を上げた。すると月詠は驚いた顔で私を見つめて駆け寄ってきた。
「なまえ!」
「怪我して動けなくなってたから、ここまでおぶってきてやったの」
「怪我?ぬしが?珍しいこともあるものじゃな」
銀時といるところを見たら、嫌な思いをさせてしまうかと危惧していた私をよそに、月詠は心配そうな表情で私の顔を覗き込んだ。
「何かあったのか?暴漢にでも襲われたのか?」
「いや、ちょっと考え事してたんだよね、したら足踏み外して屋根から転げ落ちちゃって…」
「考え事?…何かあったのか?」
その考え事の張本人からの質問に、すんなり答えられるわけもなく、私は曖昧に笑ってはぐらかす。月詠は一先ず屯所に戻ることを提案し、銀時におぶられたまま屯所へ向かった。何か心配していたようなことが起きずに安心した私は、素直に銀時の背中に自身の体を預けていた。
「月詠、ごめんね、心配かけて」
「何ともないのならいいんじゃ。安心しんした」
「俺にも謝れってのォ。助けてやったんだからよ」
「ハイハイ、ありがとありがと」
あァ?と声を上げる銀時の髪を引っ張ると次には悲鳴が聞こえた。声を出して笑う私につられたように、銀時と月詠も笑って見せた。屯所に着いたところで、銀時はとんでもない提案を出した。
「こいつ家まで送ってくから、お前も今日は帰れば?」
えっ、と声を上げた月詠は一瞬どこか切なげな表情を浮かべた。私はその表情を見逃さずに慌てて銀時の背から飛び降りた。
「いや大丈夫!一人で帰れる……ッ!」
「ほらな、言わんこっちゃねェ」
自力で立ち上がろうとした私は、あまりの足首の痛さに思わずよろめいた。すかさず銀時は私の腕を掴んで、寸でのところで転ぶのを防いだ。
「そう、か。…礼でもと、飲み屋にでも行こうかと思っていたんじゃが」
「飲み屋ー?それってお前の奢りィ?」
「うん、何なら私が出すから、あんたら二人で行って来なよ!私大丈夫だから!屯所に泊まるから!うん!」
掴まれた腕を払って、カカシのように片足でどうにか立った私は親指を立てて笑った。…私のことはいいから!私には構わないでくれ、銀時!月詠の気持ちに気付いてくれ!なんて小さな私の願いは届くことはなかった。
「…お前なァ、銀さんが怪我人置いて飲み行くよーなヤローに見えんのかァ?月詠、悪ィけど今日はこいつ送ってくわ」
「…そうか。まぁこれ以上なまえの怪我が悪化したら、わっちらも困るのも確かじゃ。銀時、頼んでもよいか」
待ったをかけようと口を開けた私は、また銀時の背中におぶられて、声を出すことを阻まれた。月詠はまた少し切なげに目を伏せて、すぐに私に心配そうな表情を向けてきた。それが痛々しくて、とても申し訳なくて私は月詠から、目を逸らした。
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