Ichika -carré- | ナノ


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風呂を上がり用意されたバスタオルで髪についた水滴を拭いながらふんふんと鼻歌を慣らせば、何となく鼻に付く甘い香りに首をかしげた。何だろう、何かデザートでも用意しているのか、なんて思いながらドライヤーがないことに気付いた私は身体にバスタオルを巻き居間へと向かった。今に近づくにつれて強くなるその甘い香りに、頭がクラクラしそうだ。何なんだ、この匂いは。心なしか身体が火照ってきた気がする。戸を引いた先にいた銀時、そしてその手に持たれた何かから赤い煙が立ってるのを確認するなり私の心臓はビクッと音を立てた。


「……甘い匂いがすると思わねェ?」


ニヤリと笑みを浮かべる銀時とバッチリと目が合った途端、私の身体はまるで熱でも帯びたかのようにカーッと熱くなるのを感じた。肌がそわそわとして、息が上がる。…一体何だと言うのだ。


「…なっ…何、…なに、これ…」

「んー?何がァ」


水の入った湯呑みにそれを投げ込めば、ジュッと音を立てて煙が途絶えた。しかしまだ赤い煙が居間をゆらゆらと浮遊して、それが何かを嫌でも知らされた。腰の力が抜けて思わずその場に座り込んだ私の傍らに近づいた銀時は、また嬉しそうな厭らしい笑みを浮かべて私の自身の顔を寄せた。


「身体、変な感じするだろ?これな、」

「…あ…愛乱香…っ!」

「え、何、お前これ知ってんの?」


愛乱香、とは。以前に愛染香という名の惚れ薬の類の香があったのは覚えているはず。愛染香が惚れ薬だとすれば、愛乱香は…媚薬。煙を吸い込み一番最初に見た人間に対しての性欲が高まるとかそういった効果のあるもので、それも女にしか効果のないという何とも卑劣極まりない香。本来吉原に流通していたのはこの愛乱香の方だと、後に日輪から聞いたのを私は忘れてはいない。あまりの効果に吉原はおろかこの地球上から消滅したと聞いていたというのに。


「宇宙に知り合いがいてな、そいつが珍しいモンが手に入ったってわざわざ送ってきたんだよ。吉原の秘薬、この愛乱香をさ」

「…な、何でこんなもの、わざわざ…っ」

「久々のうちだしィ?ガキどももいねェしィ?たまにはこーゆうのもいいかと思ったんだよ」

「ひぁ…っ!」


ポンと肩に手を置かれただけで、私の身体はぶるるっと震えて情けなくも嬌声を上げてしまった。思わず口元を抑えれば、私より驚いたような表情の銀時はみるみるその表情をでれっと破顔させた。まるでありとあらゆる全てが敏感な性感帯になってしまったかのように、ただ触れられるだけで快感が全身に広がって私は恐怖に慄いた。

ひどい、何てひどい仕打ち。何でこんなものわざわざ彼女に使うんだ。悪魔か、鬼かこの男!!


「…やだ、っ…銀時、これやだ…っ」


どんなに心の中で悪態をついても、身体は熱く熱を帯びてその上下半身がうずうずと疼いて、太ももを擦り合わせて見ても、その感覚にまた息が漏れる。そんな私を見て銀時は更に嬉しそうに微笑んだ。バスタオル一枚の私は、どう考えても勝ち目のないこの戦いをどうにか終戦させる方法はないかと足りない頭を回転させた。それでもこの香の効果なのか、頭がうまく回らない。銀時の大きな手のひらが私の顔まで伸びてきて、徐に耳元に添えられればまた「…あっ、」と情けなく声が漏れた。


「こんなんでも、感じんの」

「…やめ、…触んな…っ!」

「んじゃ、ちゅーすんのくらいはいいだろ、そしたらやめてやっから、な」


嘘だ、と遮る間も無く私の顔をガッと自身に引き寄せて、私の唇を包み込んだ。ただ唇が触れただけでまた私の身体はふるっと揺れて、全身に熱が広がる。まだ湿った髪を指に絡めながら、私を逃がさんと角度を変えて唇に吸い付くその動作に口から短い声が漏れる。…ヤバい、たったこれだけのキスなのに。下半身が疼いて仕方がない。舌を捻じ込まれれば、早くも口元から唾液が垂れ落ちた。…まるで下を舐められているときみたいな、苦しいほどの快感に私は身をよじった。そんな私に気付きながら、銀時は大きな手を私の鎖骨に這わせ出した。


「…ふ、ぅうっ…っ!」


触れられた素肌が過剰なまでにその感触を感じ取って、私は耐えられず声を上げた。ただ鎖骨を撫でるだけのその動作にさえも、私の全神経がそこに集中してその動きを感じ取る。片手で顔を押さえつけられながら唇を奪われ、鎖骨を撫でていた指がするっと膨らみに滑ってつん、と頂に触れたとき、私の脳内は真っ白になった。


「…ぃああっっ…!!!」


パッと唇を離されて、耳元に寄せられた銀時の口から「まさか、イッたの?」と言う意地の悪い声が聞こえて、私はぎゅっと瞳を閉じた。図星どころの騒ぎではない。まだ身体が熱い。息が上がって何も言い返すことができない。だって、まるで私が私でないかのような欲求が、脳内を埋め尽くしていたのだから。

…もっと触れて欲しい。

媚薬に充てられた私は、いよいよ思考さえもおかしくなったのかもしれない。




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