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「もう歩けるから、降ろせってば」
「ハイハイ、もう少しで着くからなァ、黙っていい子にしてろよ」
「子供扱いすんな、降ろせ、バカ天パ!!」
こうなるのは必然と言えば必然だったと思う。
足首を痛めあの場から動けずにいた私を見かねて、銀時は面倒くさそうにではあったが、迷わず私をおぶって歩き出した。いや、助かるんだけど。本当感謝してるんだけど。
「…こんなの、月詠に見られたら、!」
「あいつに見られたら、何だよ?」
「……や、また、サボってたとか、思われる、かも…」
銀時の肩をバシバシと叩いて、どうにか言いかけた言葉を飲み込んだ。…あっぶね、何を言おうとしてんだ私は。危うく月詠の気持ちを暴露してしまうところだった。
銀時は気にも留めずに「日頃の行いが悪ィからだろ」と先ほど反省したことを代弁していたが、まぁ何とかやり過ごせたからいいとしよう。だけど、問題は何も解決していない。月詠が銀時を好きだと気づいてしまった以上、必要以上にこの男と関わりを持つことは避けたい。そう思っていたのに、何をしているんだ私は。
「ねぇ、おろしてくんない?」
「それにしても、百華の副頭領ともあろうお前が、足場踏み外して転げ落ちるなんざ、吉原の将来は不安しかねェな」
「…やかましいよ」
何を喚いても一向におろしてくれる気配のない銀時に、私は観念したように銀時の背に顔を埋めた。何も屯所まで連れてってもらわなくても、近くなったら降ろしてもらえばいいか。そうすれば月詠に見られる心配もないし。せめて知り合いに会いませんように。
「…はぁ」
「何、お前もため息とかつくの」
「つくでしょ、色々と気がかりがあるもんなの、女の子は」
「え、何、お前女の子だったの?知らなかったわ」
思わず背中に頭突きをかますと「う"っ!」とくぐもった声が背中越しに聞こえて思わず頬が緩む。顔を埋めた着流しから、銀時の匂いがして私の胸は何かでいっぱいになるような感覚に襲われた。時々香っていたこの匂いは、柔軟剤か何かの匂いだったんだ。意外といい匂いだと思ってたんだよなぁ。…というか先ほどから、何やら胸が苦しい。落っこちた時、ついでに胸もどこかにぶつけてしまったんだろうか。そんな私をよそに、銀時は素っ頓狂なことを言い出した。
「なァ、また団子でも食い行こーぜ」
「へ?」
「あそこ以外にも、うまい団子屋たくさんあんだよ」
「…二人で?」
…なぜか私の口から、そんな言葉が出てしまった。振り向いた銀時の返事が来るより先に、私は今一番聞きたくない人物の声が耳に届いた。
「…銀時か?ぬし、こんなところで何をしておるんじゃ」
私はその声を聞いて思わず心臓が飛び上がった。嗚呼、もう最悪だ。
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