▼ 私の隣はアイツ 1/1 ※微裏
「…っ、」
風呂場で酸欠になる程に弄り倒されたというのに、風呂を上がり布団に戻っても尚私の身体を求める銀時の熱い舌が私の背を這っている。うつ伏せになる私に跨がり、顔の両側で私の手首を押さえる銀時は傷跡をなぞるように時折キスをしてみたり、ちゅっと音を立てて吸い付いてみたり。くすぐったいその動作に私も懲りずに高い鼻息を漏らしていた。
「…ん、っ…」
身体を一月以上も重ねなかったのは今回が初めてで。久しぶりなんだから手加減してくんない?と言いたいところだが、きっと銀時から言わせれば久しぶりなんだから抱かせてくんない?と言ったところだろうか。早くも太もも辺りに熱い塊が押し付けられて、呆れながらも銀時を求めている自身の本心に気付いていて何も文句を言う気にならない。ゴロンと私を仰向けにさせて、胸元にキスを落としながら自身の下着に手をかける銀時を見て私は不意にあることを思い出した。
「…あっ!」
「ん?」
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
ずり下ろされかけている銀時の下着に手を伸ばし、もう一度履かせてやれば銀時はあからさまにジト目を向けてくる。
「お前さー、」
「え、何なの?それ今じゃなきゃダメ?いまどう考えても挿れるとこだよね?空気読めないの?」
「知り合いに片目の男っている?」
私の言葉にみるみるうちに上げていた眉を顰める銀時はぐわっと私の目の前に顔を寄せて、動揺しているような怒っているような表情で私を見下ろした。
「……どこで会った」
「へ?…河川敷」
「何もされてねーか?つーかなんでアイツがお前のこと…」
「何もされてないよ、ちょっと話しただけ」
「…話した?何を」
「何をって…」
怒りを孕んでいるその瞳は、それだけではなくただ本当に私を心配しているようにも見えた。アイツはそんな悪いヤツなのだろうか。どうもそういう風には見えなかったのだが。
「何か、壊しに来たみたいなこと言ってたんだけど、最終的には応援してくれた」
「…はっ!?」
「遠回しにだけど、頑張れって言ってるような感じだった」
「……は?」
「変なヤツだったよ。殺意剥き出しのくせに、少しもそんな素振り見せないし。そのくせどーせならやれるだけやってみれば、みたいなことをすんげー遠回しに言われたの。でも銀時のこと知ってるようなこと言ってたし、何となくお前に似てる気が…」
「…何だそれ、意味わかんねェ」
ボリボリと後頭部を掻きながら先ほどまでの怒りが冷めたのか、腑に落ちないような表情を浮かべた銀時は何なんだ、とかどういう風の吹きまわしだ、とか何とかぶつぶつと呟いている。
「金輪際アイツには関わるな、ぜってーだ。約束しろ」
「…え?あ、うん」
「…つーかお前何なの、次から次へと他の男にうつつ抜かしやがって」
「別にそういうんじゃねーよ」
「俺はお前しか見てねーってのに、何でお前は隙あらばほいほい股開くの?何なの、吉原の女だからってやっていーことと悪いことあんだろ。どんだけアバズレなの」
「…黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって。つーか誰にも股開いてねェよ!」
「あァ?!現に今開いてんだろーがよォ」
「ぎゃ!」
憎たらしい顔で私を見下ろしながら否応なしにガバッと私の足を掴み股を広げる銀時を睨みつけながら見上げれば、銀時はふぅっと困ったように息を吐いて眉を下げた。銀時のこの表情好きなんだよなぁ、なんて思いながらぼんやりとその表情を見つめていると、銀時は静かに私の額に唇を合わせた。
「なまえ、…好き、本当に好きなんだよ、お前のこと」
「…んー、知ってる」
「口わりーし男勝りだし胸小せェのに、何でお前じゃなきゃダメなんだろーな」
「そっくりそのまま返してやるよ。低収入で甲斐性なしのコブ付き天然パーマなんて、普通だったら願い下げだっつーの」
…言い過ぎじゃねェ?と口を尖らせる銀時の首に手を伸ばし、いっぱいに抱き締めれば素肌に直接伝わる銀時の温もりと鼓動と溢れんばかりの愛にあてられて私の胸は苦しいほど満たされていく。
「それでも、私だって銀時がいいんだよ。銀時じゃなきゃダメなんだよ」
そう耳元で囁いてやれば、銀時ははあぁ〜〜っと大きく息を吐いて同じように私を強く抱き返した。
「お前は本当に、…何なんだよ、可愛すぎんだろ。いつもその調子でいてくんねぇ?」
人間というのはどうしてこうも単純な生き物なのだろうか。ただ好きな人と同じ時間を過ごし、同じ気持ちを抱き、無心に身体を求め合い、ただ隣で眠りにつくだけでどうしてこうも心が満たされてしまうのだろう。こんな気持ちになれたのは初めてだ。この男の為に笑い、泣いて怒って、この男の為に生きたいなんて、笑ってしまいそうなる。それでも、私は誰に笑われてもこの男の隣にいたいのだ。月詠も吉原も捨てることができないくせに、欲張りだろうか。だけど、私は何も手放す気はない。ワガママだと自分勝手だと咎められようが、私は決めたのだ。自分が望む人生を歩みたい。過去に囚われず、私なんて…と悲観さずにただ大切なものを大切にして生きていきたい。初めて、そう思えたの。
全ては銀時に出会えたから、私は変わることができた。相手の幸せと共に自分の幸せを考えられるようになれた。沢山の人達を巻き込んで、沢山の人を傷つけて、褒められたものじゃないかもしれない。側から見ればとてつもなく不恰好で不安定に見えるかもしれない。…それでも私はここを選んでよかった。どんなに傷つけ合ってすれ違っても、坂田銀時でなければここまで愛すことができなかったのだから。
お前に出会って、恋に落ちて、沢山喧嘩をして、何度も離れて、何度も泣いて。語り出したらキリがないほどの沢山の思い出もできたよね。くだらないことで笑い合ったよね。これからも沢山くだらないことで喧嘩して泣いて笑って、ずっとそうやって生きていこうね。
…銀時、こんな私を好きになってくれてありがとう。
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