▼ 頭と百華と吉原とアイツ 1/2
月詠たちに迎えられてそのまま銀時とともに屯所へ連れてかれるや否や、私たちを待っていたのは広間に広がる宴会の席だった。私が必ず銀時を連れて戻ると信じていた月詠の指示だそうで、それを聞くなり私はまた胸が熱くなった。あちらこちらで好き勝手に飲み散らかる団員に呆れながらも、泣きながら私たちの復縁を喜ぶもの、「世話のかかるお二人ですねぇ」なんて茶化しにくるものをあしらいながら私たちはまた注がれるがままに酒を食らっていた。その中でもとてつもない絡み酒をしてきたのは言うまでもなく。
「オイィ!銀時ィ!!テメー前に次なまえを泣かせたら殺すっつったよなァ!?」
「つ、ツッキー、飲みすぎだって!」
「言ったよなァ!??!!」
「言いました、言われました。ごめんなさい、…待って、やめて、…ィヤャァァァア!!!!」
逃げ回る銀時を真っ赤な顔で追いかけ回す月詠は乾杯直後からあんな調子だ。銀時に馬乗りになりボコボコと顔を殴る月詠は思い出したように銀時から離れ私に駆け寄ってくる。これももう何度目かわからない。私は呆れながら肩を落とした。
「なまえ、わっちはぬしが好きなんじゃ…」
「ちょっとなんか色々と勘違いされそうだからもっと遠回しに言ってくんない?」
「わっちは、ぬしがおらぬとダメなんじゃ…」
「…うん、まぁそうだね。知ってるよ、私もそうだよ」
「ぬしも…!?そうか。わっちはとうの昔にぬしを護る覚悟はできておる。やはり銀時なんぞがぬしを幸せにすることはできんせん!」
「…オーイ、誰かこの酔っ払いどーにかしてー」
そんな私たちの様子を指差して笑う団員たちを睨みつけても、皆何とも幸せそうに笑うもんだからそれ以上何も言えずにまた酒を呷った。気がつくと先ほどまでクダを巻いていた月詠が私の膝の上で寝息を立てて眠っている。私が記憶をなくしている間、月詠はどれだけ思い悩んだことだろうか。くっきりできたクマをなぞれば、くすぐったそうに笑う月詠に私はまた心が洗われたように軽くなった。なぜ殴り倒してでも、銀時の記憶を思い出させなかったのか、少しだけ疑問だった。だがそれはすぐに解消された。私の身体にかかる負担を考えて、無理に私の脳を刺激しないようにときっと普段通り接してくれていたんだろう。自然に思い出すことを信じてくれていたんだろう。きっと私が月詠の立場でも、同じことを選ぶだろうから。つくづく私と月詠は似た者同士だ。
「副頭。頭は私らに任せて、今日はお休みください」
「え?いやいーよ、私と銀時も後片付け手伝うから」
「頭に言われているんです。ここ最近副頭眠れてないから、あまり拘束せずに早く帰してやれと。…まぁ結局最後まで絡んでたのは頭でしたけど」
私の膝で眠る月詠を抱え上げた団員たちは、さぁさぁと私に帰宅を促した。銀時もそれに合わせて立ち上がれば、ん、と声を上げて左手を差し出した。
「送ってっから。帰んぞ」
「え、あぁ、うん」
あまりに自然な流れだったので特に疑問も持たずに銀時の手を握り返したところで聞こえてきた音に私はしまった、と内心呟いた。ぐるっと音のしたの方へ振り返れば携帯を片手にニヤニヤと含み笑いをする団員たちと目が合った。
「副頭、すごい嬉しそうな顔してますよ!」
「やめろ!お前らなぁ、本当に覚えとけよ!」
「救世主の旦那、その調子で家まで手繋いで帰ってくださいよ!」
「ルージャ」
「銀時てめーも何なんだよ!言うなればラジャーだろーが!」
腹を抱えて笑い転げる団員たちにけっと顔をしかめて手を繋いだままに屯所を後にした。だが今日だけは、許してやろう。心配をかけた詫びだ。だけど写真は絶対消させなければ!なんて一人の鼻息を荒くする私に銀時な眉を上げて苦笑いをしていた。
prev / next
bookmark