Ichika -carré- | ナノ


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「じゃーね、二人とも」

「気をつけて帰るヨロシ!銀ちゃん、ちゃんとなまえ家まで送るんダヨ、寄り道したらダメだからネ」

「わァってるって」

「平気なんですか?結構お酒飲んでましたけど…」

「平気だァって」


すっかり暗くなった夜のかぶき町。新八と神楽に見送られ頬を染めた銀時と並んで歓楽街を歩いた。手を繋ぐわけでもなくそれでも離れることもなく、肩が当たったり離れたりを繰り返す微妙な距離間に私はなんとも言えないもどかしさを感じていた。まともに会ったのはひと月ぶり。それもその間私が銀時を忘れていたせいで、今までどうやって二人の時間を過ごしていたのか、すぐに思い出せそうにない。それは銀時も同じようだった。


「…、なんだよ」

「…そっちこそ」


私の視線に気づいた銀時が、口を尖らせて同じように私を横目で見る。素っ気なく返事を返せば、銀時もそれ以上何も言わずにまた前に向き直った。…せっかく元に戻れたのに、私って本当に可愛くないなぁ。たまには自分からすり寄ったりすれば少しは可愛げがあるっていうのに。右手の掌が無意識に宙を摘む。…手、繋ぎたいなぁ。



「あれ、銀さん!久々じゃねェか!」


突然私たちに声をかけてきたのは、近くの大衆居酒屋の店主のオジサンだ。以前にも何度か顔を合わせたことがある私は軽く会釈をした。


「やっと本調子に戻ったのかい?」

「…あー、まァね」

「みんな心配してたんだぜ?ここ最近銀さん元気ねェから、お姉ちゃんと別れちまったのかって話してたとこだったんだ。だがその心配は無用だったようだなぁ!」

「銀時、元気なかったんですか?」


ガハハ、と豪快に笑うオジサンにわざとらしく眉を上げて問いかければ、銀時のバツの悪そうな表情が視界に入って思わず口元が緩んでしまう。そんな銀時に構うことなく、オジサンはまた笑いながら続けた。


「元気がねェってもんじゃなかったぞ!この世の終わりみてェな顔でフラフラ徘徊してたもんなぁ」

「おやっさん、いいって…」

「あんな銀さん初めて見るなぁって話してたんだよ、何だよ、銀さん心配させねェでくれよ!」

「ふーん、そーなんだ…」

「あーもう、じゃーなおやっさん、また近々顔出すよ」


恥ずかしそうな顔で早々にオジサンとの会話を切り上げた銀時に、オジサンは仲良くなぁ!とまた大きな声で笑って手を振った。少しだけ私の前を歩く銀時は何も言わずにガシガシと後頭部を掻き毟っている。そんな私たちにまた道行く人が次々に声をかけた。

…銀さん、やっと元気になったのねぇ!
…旦那、何でまたあんなにやつれてたんです?
…彼女と喧嘩でもしてたのか?仲直りできてよかったなぁ。

誰も彼も内容は同じようなこと。そんな声をかけられるたび銀時はうるせェ、余計なお世話だ、と眉を顰めてあしらっていた。

本人に聞かずともかぶき町の皆の言葉でこのひと月の間をどう過ごしていたのかが想像できる。私のせいでこれほどまでに荒んだ日々を送っていたなんて、申し訳ない気持ちもある。だが不謹慎にも嬉しい気持ちが上回っていた。私がこのひと月自身の脳内で無意識に色々な葛藤をしている間、銀時もきっと色々な感情に悩まされていたのかもしれない。私への気持ちと、自身への気持ち。皆が見てわかるくらいに荒んでしまうほど、私のことを考えてくれていたのだと、嬉しくなってしまったのだ。


「銀時」


ちらりと少しだけバツの悪そうな表情でこちらを振り返る銀時に、私はばっと右手を差し出した。驚いたような表情をした後に、少しだけ嬉しそうな顔で私の手を握った銀時の腕に絡みつくように隣に寄り添って銀時の顔を見上げた。


「私のこと、本当好きなんだね」

「うるせーなァ。…好きだよ、わりーかよ」


珍しく素直にそう言い放ちつんと口を尖らせる銀時が可笑しくて、私は思わず声を上げて笑った。繋いだ手から感じる銀時のぬくもりが心をぎゅっと締め付けた。



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