Ichika -carré- | ナノ


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「本当はもう、会わねェつもりだった。でも忘れられたままなんて癪で、…お前が寝てる間にお前のツラ見に行って…」


銀時の言葉に、私はハッとした。会いに来た?銀時が、私に。そしてすぐに最後の夢の中で見た光景を思い出して私は銀時から離れて眉を上げた。


「……お前、そん時泣いてた?」

「…はっ!?いや泣いてねェし、泣くわけねェだろ!全っ然泣いてなんかないからね!!!」


私の言葉に慌てふためく銀時は私の視線を避けるようにまた私の顔を自身の胸に押し付けた。…怪しい。だって、夢の中の銀時は泣いてたんだもん。何ならさっきもちょっと泣きべそかいてたくせに。…と、そこまで思えばまた一つあることを思い出した。


「…団子、…」

「……あー…」

「…銀時がもってきてくれたんだね」

「……さァな」


あの時感じた違和感は、これだったのか。きっと私の壊れた思考の中でもたくさんの葛藤があったんだろう。普段から団子を手土産に私の家にくるのは銀時だったんだから、それに違和感を感じてもおかしくはないことだ。全蔵を彼氏だと思い込んでいながらそれによって生じるズレがこれまでの頭痛を引き起こしていたのだと気付き、勝手に忘れておきながらも私自身はきっと銀時のことを必死に思い出そうとしていたのかもしれないと思い知った。……それにしても。


「…なんでお前泣いてたの?」

「だっから泣いてねェっつってんの!」

「嘘!泣いてたし!見てたし!」

「見てねェだろ、お前人の気もしらねェでぐーすかいびきかいてたろ!」

「はァ!?かいてねーし!お前と一緒にすんな!」


また銀時の腕の中から顔をパッと上げると少しだけ頬を赤らめて眉を顰める銀時と目が合って、どちらからともなくぷっと小さく笑い合った。…嗚呼、なんて居心地がいいんだろう。この男の腕の中は。心に開いた隙間をこれでもかと埋め尽くすように、どんどんと満たされていく。私の頬に手を這わせながら、銀時は片眉と口角を上げた。


「…ひでェツラ。クマはすげーし、涙で化粧ぐちゃぐちゃだし」

「お前もクマすごいし、…ってうわ、ヒゲ剃ってねーの?ジョリジョリしてんだけど!キモッ」

「あァー?誰のせいだと思ってんだよ、このバカ女!」

「ちょっ!痛ッ!痛い!!」


私の頬をガッチリとホールドした銀時は少しばかり伸びているヒゲを私の頬にグリグリと擦り付けた。涙でヒリヒリしている頬に追い打ちをかけるように痛みが広がって、私は必死にその顔から逃げようと銀時の胸を押し返した。ふとそのヒゲ攻撃が止んだかと思えば、銀時が黙って私を見つめている。何、と声を上げようとしたところで、私は銀時が何を言わんとしているかを察して少しだけ目を泳がせた。何でこんなに緊張しているのか、自分でもわからない。初めてのことでもないというのに、私の胸が大きく音を立てて律動していて息苦しい。それでも私は次の銀時の行動を促すように、静かに顎を上げ目を閉じた。


「なまえ、好き」


心臓が、痛い。
静かに響いた銀時の声色に私の身体が思考が、…心が。全身全霊で私自身に訴えかけている。…この男を心から愛していると。早くその柔らかくて優しい温もりを感じたい。夢じゃないのだと実感したい。…だが、すぐ近くに感じる銀時の唇の温もりに触れかけた瞬間、私はあることを思い出してしまった。


「………待って!ダメだ!!!!」


すぐそばに迫った銀時の唇を遮るように両手で銀時の唇を抑え押し返せば、私がそんな行動をとるとは少しも思っていなかったらしい銀時は、驚いたような表情を見せてから、すぐに眉を吊り上げた。私の手の中で何かモゴモゴ喚いているが、ダメだ、ダメなんだ。すっかり忘れてしまっていた。…だって、だって…。


「…私、全蔵に抱かれたんだ…」




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