Ichika -carré- | ナノ


▼ 2/4



「……私はね、…っ」

「…ん」

「ずっと、…自分は強い人間だと思ってた。地雷亜のことがあったときも、百華の副頭として吉原や月詠を護るためにも、そうあるべきだと思ってた。…何も、苦じゃなかった」

「…」

「全蔵と別れた時も、…仕方ないと思った。別に男なんていてもいなくても変わらないって、本気で思ってた」

「…」

「だけどお前に出会って、付き合うようになって、…本当はそうじゃない自分に気付いたの。感情的に怒ったり、泣いたり、そんな自分が見せられる相手がいることで、こんなにも気持ちが楽になるんだって、初めて知った。…そんな存在、もう二度と出会えることはないんだって思ってた」


だけど気持ちが増えれば増えるほど、付いて回るのはその存在を失う恐怖。もしもこの幸せがひと時のものだとしたら?また別れを経験して振り出しに戻るのだとしたら?…そんな気持ちが好きという気持ちを揺さぶって、不安ばかりを募らせた。


「銀時、…私は初めて月詠以外の人間に固執して、その笑顔を幸せを一番近くで見てたいって思って。だけどその分悲しませることも増えてって、どんどんその顔を見るのが怖くなって。…私のせいで悲しい思いをさせたくない、ずっと笑ってて欲しいって、…いつしかお前が私に対して抱いてる気持ちに被せるようにして、私はお前の幸せを護りたかった。…だって、銀時が笑ってくれなきゃ、私は何の意味もないんだよ。…太陽が空を照らしてくれたって、月が空を見守っててくれたって、そこにお前がいなきゃ、何も意味がないんだよ…っ」


銀時の胸元を先ほどより強く握れば、それに応えるように私を抱きしめる銀時の腕に更に力が入る。銀時は何も言わずにただ静かに私の言葉に耳を傾けていた。


「…ごめんね、銀時。私はお前がいなきゃ、少しも強くいられない。でも、それが恥ずかしいことだなんて少しも思わないよ。銀時が弱くても、カッコ悪くても、そんなことどうだっていいの。これから先もっと傷つけ合うかもしれない。悲しい思いをするかもしれない。それでも、私は銀時と生きたいの。銀時とだから…。どんなに不恰好でも綺麗な形じゃなくても、私には銀時が必要だし、銀時には私が必要なんだよ。一番近くで、お前の笑った顔を見てたいんだよ…」


静かに顔を上げて銀時を見上げれば眉を下げて私を見つめる瞳。愛おしいものを見つめて慈しむようなその瞳を真っ直ぐ捉えた私は、ぐしゃぐしゃの顔で笑顔を向けた。


「…今まで、忘れててごめん」


…好きだよ、銀時。
そう付け足せば銀時は下げていた眉を更に八の字にして、すぐに破顔した。言葉では言い表せられないほどの感情が胸を埋め尽くした。苦しくて、切なくて、恋しくて、心の底から愛おしい。たくさん傷つけ合ってきた。たくさんすれ違ってたくさん遠回りしてきた。それでも私はその日々を少しも無駄だとは思えない。そうやって遠回りしてきたからこそ、私はこんなにも銀時を大切にしたいと思えるのだから。


「…俺も、なまえが好きだ。この手でお前を幸せにしてやりてェ。そう思えたのはお前が初めてなんだよ」


私はずっと、この笑顔を探してた。真っ暗な雨の中声も出せずにずっとずっと、この笑顔を探し求めていた。もう二度とこの笑顔を絶やしてほしくはない。何よりも、愛おしいこの笑顔を。




prev / next
bookmark

[ back to main ]
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -