Ichika -carré- | ナノ


▼ 傷つき合う私とアイツ 1/4



強く顔を胸に押し付けられた私が控えめに銀時の胸元をぎゅっと握れば、銀時は私の首元に顔を埋めた。先ほどまで散々冷たくあしらっていたはずの銀時がなぜ今私を抱きしめているのかなんて少しももわからないのに、咎めることも何か問いただすことも出来ずに私はただその胸で涙を流した。


「…何なんだよ、お前は本当に…」

「…っう、…ぅ…」

「…帰れっつったろ」

「…だって、…っ、…」

「いつまで、…いつまで泣いてんだよ…」

「……もう、ダメかと思った……っ」


嗚咽を抑えながら絞り出した言葉を皮切りに、私はまた懲りずに声を上げて泣いた。私は何度この男の胸で涙を流せば気が済むのだろう。いい加減に愛想を尽かされてもおかしくはないのに、私の頭を撫で出す銀時の手のひらが優しくて、暖かくて。またそれが涙を溢れさせる。


「なァ、なまえ、…聞いて」

「…ん…っ、うん、…っ」

「…あの日、距離置こうって、言ったのは、お前が嫌いになったとか、清猫組のヤローに何かされたからとか、そういうんじゃねェ」

「…うん、……っ」

「あの日、猫田ってヤローに言われたんだ。俺みてェな弱いヤツじゃお前みてーな女の彼氏は務まんねェって。お前を壊すだけだって、そう言われた」

「…そんなこと、…」

「俺もそん時ゃそう思った。こいつに俺らの何がわかるんだって、そう思った。だけど、そのあとお前んとこ行ったろ。そんときのお前は俺に泣き言一つ言わねェで、…大丈夫だ、って笑ったんだ。そんときに思った。俺はお前に護られてたんだって、初めて気付いた。俺の心が弱ェから、お前はこれ以上俺を傷つけねェようにそう言ったんだって思うと、…すげェ情けなくて」


その時のことを思い出しているのか、普段よりゆっくり途切れ途切れに言葉を発する銀時に、私は小さく首を振った。…違うんだよ、銀時。私は、私のせいで悲しむ銀時を見たくなかったんだよ。笑ってほしかっただけなんだよ。


「それからずっと考えてた。俺の存在はお前に負担をかけてるだけなんじゃねェかって。重荷を増やして、お前を息苦しくさせてるんじゃねェかって。…俺はお前が生きてく上で、少しでも気を許せる場所になりたかった。気を抜いてありのままの自分でいられる場所になりたかった。だけど俺じゃお前みてーな心の強い女を、護ることなんてできねェのかもしんねェって疑心暗鬼になってた」

「…っ、…」

「お前があのとき、俺に抱いてってせがんできただろ。何でそんなこと言うのか、あのときの俺はテメーのことでいっぱいいっぱいで少しも気付いてやれなかった。…お前が抱いてる不安に気付いてれば、こんなことになってなかったのにな」

「……っ」

「だけど、お前を悲しませる存在でいるなら、離れたほうがいいって、そう思った。俺のせいで記憶なくしちまうまで追い詰めて、傷つけて、そんなヤローがどのツラ下げて好きな女を幸せにするなんて言えるんだよ。…言えるわけねェだろ、そんなこと、…言えるわけねェのに」

「…?」

「それでも、…俺はやっぱりお前がいねェとダメだった。…離れてる間、毎日お前のことばっかり考えてた。毎日毎日お前の夢ばっか見て、もう俺のことなんか忘れちまってるってのに、少しも、…頭から消えてくんねェんだ。もう悲しませたくない、なんて宣っても結局俺はずっとお前を求めてた」


おもむろに私から離れた銀時は、思わず銀時を見上げた私を見下ろして、少しだけ眉を顰めて切なげな瞳で私を見つめた。はらはらと流れる涙を親指で拭う銀時はそのまま私の頬に手を添えた。


「なまえ…、お前は汚くなんかねェ。少しも汚れちゃいねェ。…そんなこと、誰が思うかよ。どんなお前でも、俺にはお前が必要なんだよ…」


その言葉に私はまた眉を顰めて涙を流した。…ずっと、言ってほしかった。銀時の口から、そう聞きたかった。自身の穢れに飲み込まれて、消えて無くなりそうになった。変えられるものなら、今までの全てを変えたいと何度も思った。私を汚した全てを消し去りたいと、そう思ってた。…でも、何よりも愛しい人がどんな私でも受け入れてくれるのなら。…過去を恨むなんてことはもうしなくてもいいのかもしれない。とめどなく流る涙を見て、銀時は少しだけ困ったように笑ってまた私を抱きしめた。




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