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「私はそれでも、銀時がいいんだよ。弱くても、情けなくてもカッコ悪くても、…それでも銀時がいいんだよ。…銀時じゃなきゃ、ダメなんだよ…」
「…」
「それとも、銀時は私じゃダメなの？吉原の女は汚いって、私のこと、汚いって、…そう思ってるの？」
「…そうだって言やぁ、納得すんのか」
「…わかんない、私はもう銀時のことがわからないよっ…！自分が弱いとか、私のことを護れないとかそんなことどうだっていいのに。…私はただ、銀時と一緒にいたいだけなのに…っ」
「…」
「……どうして、ダメなの…」
額に手を当てて、興奮する自身を宥めようと静かに息を吐く。止めどなく溢れる涙が頬を流れても、もう拭うことをしないのは、無意味だとわかっているから。…あれほどたくさんの人に支えられ、背中を押されてここまで来たっていうのに、どんどん気持ちが折れそうになる。こちらを向くことなく、一向に首を縦に振らない銀時に、私の心は悲鳴をあげる。みんなはああやって言ってくれたけど、それがみんなの思い違いだったら？銀時は本当に私に愛想を尽かしてしまっていたのだとしたら？…そう思った方が、すんなりとこの状況を受け入れることができる。頑として意志を曲げない銀時の、心の中が見えなくて息が詰まるような感覚に苛まれた。
「…銀時、…」
「…」
「もう、私のことが、…嫌いになった？」
「…」
「私が汚いから？…お前のこと、忘れちゃったから？」
「…」
「…私のこと、いらなくなっちゃったの？」
「…そうだよ」
急に聞こえて来た銀時の言葉。私の心を握りつぶすには十分すぎるほどの言葉だった。思わず俯いていた顔を上げても、視界に入るのは銀時の背だけ。わからない、わからないよ。私はもう、お前の心がわからない。
「口はわりーわ、胸も小せーわ、すぐキレるわ、可愛げのカケラもねェ。隙がありゃ元カレとしょっちゅう会ってるしよ。世間知らずでバカで向こう見ずな女なんてな、…もう御免なんだよ」
「…っ」
「挙げ句の果てに彼氏のことすっかり忘れちまいやがって、そのくせノコノコ戻って来て好きだなんだって、勝手なこと抜かしやがる。もう懲り懲りだよ」
冗談を言うようなトーンでもなく、淡々と私への愚痴を言ってのける銀時に、私は居心地の悪さに耐えかねていた。そしてどれもこれも間違いはないことばかりで、それが余計に私の口を噤ませる。
「何が弱くてもいいだよ、人の気も知らねェで。吉原の女だってのに、男の立て方も知らねェの。女におんぶに抱っこなんてされてェわけねーだろ。そこまで成り下りたくねェんだよ」
「…」
「何でここまで言ってわかんねェかな。もうどっか行ってくんねェ。さっさと吉原にでも、あのイボんとこでも帰ってくんねェ？もうそのツラ見せんなよ、頼むから」
いよいよ本当に吐き気を催してきて、私は銀時から目を逸らした。絶えず頬を流れる涙は、ここまで捲し立てられても止まることはない。それでも、私の心がもう限界だと悲鳴を上げている。もうこれ以上ここにいては、私はまた壊れてしまう。咄嗟にわたしは銀時から背を向けて、戸に手を伸ばした。
…本当に私たちはもう終わりなんだね。どれだけすがっても、涙を流しても、胸の内を打ち明けても、もう銀時の気持ちは、私に向いてくれることはないんだね。
「……なんで」
戸に手をかけた私の背後から、か細く呟く銀時の声が聞こえて思わずその手を止めてしまった。聞き間違いかと思うほどに、小さな小さな声。
「…なんでお前は俺じゃなきゃダメなんだよ…」
これ以上私を責め立てる言葉はもう聞けない。もう限界だと心が訴えている。これ以上自身を傷つける言葉を受け止められるほど、私の心にはもう少しも余裕などない。…そう思っていたのに。
「……なんで、俺はお前じゃなきゃダメなんだ……ッ」
戸から手を離し、私は思わず振り返った。先ほどまで私の視界には微動だにしない銀時の背中だけが映し出されていたと言うのに。振り返った私を見つめる銀時の少しだけ濡れた瞳と目が合えば、私はまるで初めて恋をする少女の如く、強く心臓が締め付けられる感覚に陥った。苦しくて、切なくて、…途方もなく愛おしい。その瞳を、その表情を見るなり、気が付けば私は声を上げていた。
「……銀時……っ」
銀時は眉を顰めながら私を見つめていたかと思えば、こちらに駆け寄り強く私を抱き寄せた。私を抱くその腕が痛いくらいに力強くて、息をするのも忘れてしまいそうになる。それでも私は悪態を吐くこともせず、その胸の中で声を上げて泣くことしかできずにいた。
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