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「戻ったよー。月詠、昼行っていーよ」
「なまえ、初めての地上は楽しかったか」
「んー普通、団子もこっちのと何も変わんない」
私の言葉に月詠は声を出して笑った。暫く非番を取っていない私たちは、互いに時間をずらして昼を取ることで息抜きの時間を過ごしていた。それほどまでにここ数日は忙しく、掟を守らぬ不届きものの処断に飛び回っているのだ。
「神楽と新八は元気だったか?」
「二人に会ってないなぁ。銀時と二人だったんだよね」
「…二人?」
何の気なしに言った言葉に、月詠は一瞬目を見開いて固まった。すぐに「そ、そうか」と私に背を向けて、足早に屯所を離れた。ぎこちない月詠の態度に私は首を傾げた。…ん?いや、待てよ。ここ最近月詠がいい意味で変わったと思っていた。特に気にすることもないと思ってはいたのだが。
「まさか、…あいつ、銀時のこと」
人は恋をすると変わると言うが、あれはまさしく恋をしている女のそれだ。確かに昔以上に彼女はよく笑う。それは鳳仙が倒れたからだと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。なるほど、それなら合点が行く。
…月詠が、恋か。
昔から彼女を見てきたが、彼女の恋をする姿など見たことはなかった。忍術修行に明け暮れ、吉原の番人と呼ばれるまでになった私たちの決定的な違いといえばそこだ。そんな彼女が、恋をするとは。
そして、まさかその相手が銀時だとは。
その時、私は胸の奥に異変を感じた。思わず胸の辺りに手を当ててみるが、それが何なのかわからなかった。何かがつっかえているような、なんだか変な感じ。
「…?」
それが何なのか、気づく日はそう遠くはない。
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