Ichika -carré- | ナノ


▼ 3/3



「なまえ!」
「なまえさん!」


駆け寄ってきた神楽と新八を見て、私はほっと心が温かくなって思わず緩む頬を隠しきれない。猿飛の肩から腕を外してこちらに駆け寄る二人に近寄るも、捻った足首の痛みにまた膝をついた。そんな私を囲う二人は私の目線まで腰を落として、私の顔を覗き込んだ。神楽の涙ぐんだ大きな瞳と目が合えば、こちらも自然と喉の奥が痛み出す。


「銀ちゃんがいつまでもなまえと喧嘩したまま仲直りしないから、なまえに仲直りしてって頼みに行こうとして…そしたらツッキーが…っ、なまえが銀ちゃんのこと忘れちゃったって……それでっ……!!」

「ごめんね、神楽。…もう思い出した。お前らのことも、銀時のことも……、ちゃんと、思い出したよ」

「なまえさん…それじゃ銀さんには、もう…?」

「ううん、これから行こうと思ってたんだけど、…足挫いちゃって。そしたらこいつらが」


背後の土方と沖田、そして猿飛に視線を移せば三人とも呆れたようなはたまた安堵しているような、なんとも言えない表情を浮かべている。そんな三人からまた神楽たちに視線を戻して、不安げな表情の二人を両腕でぎゅっと抱き寄せた。


「心配かけて、…ごめんね」


小さくそう呟けば、神楽は私の肩に顔を当てて肩を震わせた。新八は横に首を振りながらずっと鼻をすするような音を鳴らす。こんな子供たちに心配かけて、私は本当に何をしているんだろう。銀時はきっと二人に心配かけまいと、喧嘩をしたなどと嘯いたのだろう。銀時なりの優しさを実感して、眉を顰めた。


「…銀ちゃんは、なまえがいないとダメなんダヨ。毎朝ヒゲも剃らなくなったし、ご飯も全然食べないし、足もクサイネ」

「そうですよ。なまえさんと喧嘩したって言ってからあからさまに元気ないし、甘い物も食べないし、足はクサイし」

「…足クサイのは私のせいじゃねーと思うよ」

「…銀ちゃんはなまえがいなきゃマダオどころか、死体と同じネ。早く銀ちゃんのところ、行ってあげてヨ…」


記憶を無くし銀時と離れている間、二人はなにを思いながら過ごしてきたのだろうか。二人の言うように生気のない銀時を見ながら何度心配をしたのだろうか。そしてわざわざ吉原まで行き、私を説得してくれようとしていたなんて。…胸が苦しくなる。私は、私たちは何をしているんだろう。こんなにも周りの人たちに心配と迷惑をかけて。…私たち互いが弱いばかりに、こんなにもたくさんの人を巻き込んで。何度謝っても、謝りきれそうにない。捻った足を庇いながら立ち上がれば、何も言わずに私を支える神楽と新八。私はそのまま土方、沖田、そして猿飛を見据えた。


「…迷惑かけて、…ごめん」


素直にそう謝り頭を下げれば、すぐに土方のけっと悪態をつくような声が聞こえた。


「だから、らしくねェことしてんじゃねェよ」

「早くいつもみたいなデリカシーの欠片もねェ姐さんに戻ってくだせェ。土方さんの言う通りらしくねェですぜ」

「…そうね。自分勝手でワガママじゃないなまえはなまえじゃないわよ」

「…何なのお前ら。人が真面目に謝ってれば」


むっと眉を顰め唇を尖らせれば、三人がふっと笑うもんだから私もつられて微笑んだ。神楽と新八に支えられながら三人の横を通り過ぎる時、もう一言付け足すように呟いた。


「……ありがとう」


もう、万事屋はすぐそこだ。私は小さく深呼吸をした。




prev / next
bookmark

[ back to main ]
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -