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団員数人と見廻りをしながらも、何となく先ほどの二人のただならぬ雰囲気を思い出して、私は顎をさすりながらぼんやりとしていた。何か変だよなぁ、最近。月詠も日輪も、団員も、全蔵も。私に接するときは割れ物にでも触れるかの如く手探りで話をしているような、何だか変な感じ。
「ねぇ、最近月詠たち変じゃない?」
「…えっ?!そうですか?!」
「…んー、気のせい?」
「気のせいですよ!暑くなってきたんで夏バテでもしてるんですよ、きっと」
「そーかな」
団員たちは慌ててそう繕ってみせるが、お前らも十分変なんだけどなぁ。まぁ気のせいと言われれば気のせいな気がする。考えすぎだろうか。私こそ夏の暑さにバテてきているのだろうか。そうこうしてるうちに見廻りも終わり、屯所についた私は月詠がいるであろう部屋へ向かうと何やら言い合いをしているような声が聞こえてきた。
「…のよ!?…ぎん…、あんな顔、…ないの!」
「…わっちら…、……じゃ!…」
「…こんなの、耐えられない…!」
不審に思い戸を引けば、驚いたようにこちらを振り返ったのは月詠と、目を腫らした猿飛だった。泣いていたのか、私の顔を見るなりパッと顔を逸らして目元を拭う猿飛に私は首をかしげた。
「どーした猿飛、たまに遊びにきたと思えば。何泣いてんだ。喧嘩でもしたの」
「…なまえ、何でもありんせん。気にするな」
「気にするなっつったって、声デカすぎて外まで聞こえてたけど」
「…ぬし、話を聞いておったのか…?」
「いや話の内容までは聞き取れなかったけど。…おーい猿飛、どーした…」
「どうしたもこうしたもないわよ!!!」
いつまでも顔を上げない猿飛に私は眉を上げながらその肩に手を置いた瞬間、その手を勢いよく振り払った猿飛は眉を釣り上げて涙目の瞳を私に向けてきた。
「あんたこそどうしちゃったのよ!いつまでそうしているつもりなのよ!!!」
「猿飛!やめなんし!!」
「え…」
「私もうあの人のあんな顔、見てられないわよ!!!」
そう叫びながら猿飛は私の肩に身体をぶつけながら勢いよく部屋を飛び出して行ってしまった。あまりに突然の出来事に私は呆然と立ち尽くすかとしかできずに、振り払われた手を見つめた。
…あんたこそ、どうしちゃったのって、何。いつまでそうしているつもりって、どういう意味。あの人って?誰?…全蔵のこと?検討もつかない猿飛の怒りに私は素直に困惑した。
「なまえ、猿飛は、…」
「…っ…!」
その瞬間、最近よくなる頭痛とは比べ物にならないくらいの痛みが私の頭を襲って、思わず頭を抱えてうずくまった。痛い、かち割れそうなほど、頭が痛い。意識が朦朧とする。
「なまえ!どうしたんじゃ!なまえ!!」
わからない。頭が痛い。吐き気がする。苦しい。息ができない。私は何かとてつもないことを忘れている気がする。でも、何を?何を忘れているっていうの。思い出せない。そもそも本当に何かを忘れているなんてことあるのかどうかも、わからない。…痛い、痛い。わからない。何も、…何もわからない。私の意識はそこで途切れた。
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