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思わず目の前の全蔵に、全力で拳を決め込んだ。隣の家屋の屋根まですっ飛んだ全蔵は向こうで「何すんだよ!」なんて声を上げている。そんな全蔵をよそに、私はその場に項垂れた。
…何で、銀時の顔がチラついてんだ、私!!!意味わかんねェよ、何で銀時なんだよ!!
クエスチョンマークが離れない私に、全蔵が口元を押さえながら近づいてきた。
「せっかくあと少しだったのに、何すんだよォ」
「うっせーよバカ!つーかどさくさに紛れて何しよーとしてんだ!セクハラ忍者!」
「完全に受け入れよーとしてたじゃねェか!」
懲りずにまた私の肩を組もうとする全蔵の腕を力任せに抓ると、溜め息をつきながらもようやく距離を空けて腰を下ろした。それにしても、何故だ。何故こんな時に銀時の顔が浮かぶのだ。久々に輩を成敗したもんだから、疲れてしまったのだろうか。漫画のようにダラダラと流れる汗を見て、全蔵は不思議そうな顔を向ける。
「…何だよ、汗だくじゃねェか。腹でも下したか?」
「そうだね、色々と多大なストレスを感じたからね」
「ひでェ言い草だなァ、オイ」
少し気持ちが落ち着いたところで、再び屋根を背に寝転がった。ぼんやりと覗く月を眺めて、ふぅと溜め息を吐くと、全蔵もまた、月を見上げているようだった。
「何か、変わったことはあったか」
全蔵の言葉はとても曖昧なものだったが、私はすぐに意味を理解した。月から視線を外すことなく、私は小さく首を振った。
「…いや、何も変わらないよ。私も、月詠も」
「そーかよ、なら一安心だ」
フッと笑ってみせる全蔵に視線を移して、同じように微笑み返した。ふと、聞こえないはずの声が、耳に届いた気がした。
『なまえ、俺とお前なら、月を護ることができる』
その声から逃げるように、私は強く目を瞑った。
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