Ichika -carré- | ナノ


▼ 2/3 ※微裏

※暴力表現・無理矢理表現あり 苦手な方はご注意お願いいたします。



私はまるで人形にでもなった気分だった。


「お前そっち押さえてろよ」


強く肩を押しながら私に跨る男を無感情で見上げていた。後ろ手に強く結ばれた両手が床に擦れて血が滲んでいるのを感じながら、私は汚い手で私の肌に触れる男をただ虚ろに見つめていた。


「こいつ抵抗しねーぞ、満更でもないんじゃねーの」

「そりゃオメーこの女遊女だぜ?好きもんだろうよ」


強く胸を鷲掴みされようと、首元に舌を這わせられようと、痛みどころか嫌悪感すら浮かぶことはない。…きっと私は生まれながらにこういう定めだったのだろう。そう、どこか諦めすらも感じていた。子供ながらに連れてこられた遊郭街。座敷に上がることはなくとも、結局自警団を名乗りながらもしていることは遊女たちと何も変わりはなかった。生きていくために、…私と月詠が生きていくためにはそうせざるを得なかった。


「オイ、お前だけずりーよ。俺にも触らせろよ」

「頭がいいって言ってんだ、時間はまだたっぷりあるさ」


あの頃は月詠を護ることに必死だった。どれだけ自分が傷つこうと、汚れようと。私は護らなければならないものがあったから、何をされても平気だった。それ故、きっと身体が慣れてしまっているんだ。手篭めにされ辱めを受けることに、慣れてしまっている。声もあげず、眉ひとつ動かさない私に何か汚いものでも見るような顔を向けてくる男たち。


「…何だよ、こいつ。気持ち悪ィ。声も上げねぇ、ピクリとも動かねぇ…」

「お前がヘタなだけだろ、ホラ代われよ」


後ろで猫田の可笑しそうに笑う声が聞こえた気がした。そうだよな、可笑しいよな。こんな目に遭っておきながら抵抗もしない私はきっとおかしい。あんな日々を送っていた所為で、心を殺すことに慣れてしまっていた。悲しさも惨めさも何もない。痛みも感じない。素肌の感覚すらもない。ただ耐えればいいだけ。相手が満足するのを待てばいいだけ。…それだけのはずだったのに。


「こいつ、これでも女の身体かよ。背中の傷といい、あちこち傷だらけじゃねェか」

「ホント汚ねー身体だよなぁ。上玉だってのに、もったいねェ話だ。だが、こっちの具合はいいんじゃねぇか…?やっぱり遊女だしよ…」


乱暴に下腹部に手を伸ばす男にも私は顔色すら変えることなくそれを受け入れた。
…そう、私は汚い。人としても女としても、たくさん汚れてきてしまった。私だって、そんなことわかっていたつもりだったのに。


『傷なんて、一つもねェよ』
『綺麗な身体だ』


不意に反響するように耳元で声が聞こえた気がして、私の心がピシリと音を立てた。

慣れていたはずの行為だった。
歯を食いしばり、顔色も変えず声も上げず、何も反応することがなければ、早々に男たちは飽きて私を解放してくれることだろう。嫌だやめてと泣き叫ぶだけ、相手を煽ることになるのだから。ただその時を過ぎるのを待てばよかったのに。


「…何だよ、少しも濡れてねェじゃねーか」

「つまんねー女だなぁ」


私は変わってしまった。あの頃になかったはずの感情が、胸の奥底から芽生え出せば見る見るそれは成長をして、私の心の中を埋め尽くす。

…銀時の悲しむ顔だけは、見たくないなぁ。

ただでさえ嫉妬深い男なのに。こんな目に遭っているなど、知ればきっと怒り狂うだろう。そして、すぐに悲しそうな顔をする。何でそんな無茶するんだと、私を窘めるだろう。私は銀時を悲しませるなんて、もう絶対にしないと決めていたのに。もう銀時のあんな顔を見たくなかったのに。

…私は少しも銀時の為に何かしてあげれたことはなかった。地雷亜のときもそう。愛染香のときだって、私は銀時を悲しませる役回りばかりだった。こんなにも大切にしているつもりだったのに、結局、私は…。


「こいつ痛めつけなきゃ感じねーんじゃねぇか」

「だからちっとも感じてねぇのか。オイ、お前こいつのこと殴れよ!」


「あまり顔に傷つけるのはやめてくださいね」なんて少しも咎める気の無い猫田に頷きながらも、私に跨る男は忠告を無視して私の頬を強く殴りつけた。口の中に広がる鉄の味をぺっと脇に吐き出せば、頬が熱く腫れてくるのを感じた。容赦なく振り下ろされる拳に、私は少しも痛がる素振りも、嫌がる素振りもなくそれを受け止めれば、男たちは引き攣った顔で私を見下ろしている。


「……何だよ、何なんだよ、こいつ!」

「何で抵抗しねぇんだ!?痛がりもしねぇ、それどころか声もださねぇ…何なんだよ気味が悪ィよ!」

「も、…もういいよ、俺がぶち込んでヒイヒイ言わせてやるから、お前らどけよ!」


ごそごそと自身の下腹部を弄りながら、私の足を担ぎ上げるその男を私は黙って見据えた。それに気付いた男はびくっと大袈裟に驚いてみせた。「何だよ、何なんだよその目は!」の気味が悪いと言ったような表情を浮かべた。


「……残念だな。生娘ならまだしも、…こんな中古女の為に、お前ら……、っ」

「…あ?!」


こちらに近づく人の気は想像してたより一つ多い。あのバカ、他言無用っつったのに。こんな姿、見せたくなかったのに。…アイツの悲しむ顔なんて、見たくなかったのに。


「二回も、…死ぬことになるんだから…っ!」


男どもが声を上げるより早く、バァンッ!と大きく音を立てて扉が蹴破られた。猫田や男どもが狼狽えるような声を上げる中、私はゆっくり音の方へと視線を移せば想像通りの人物が蹴破られた扉の先に立っている。キョロキョロと心配そうな顔で室内を見渡す銀時は、私を捉えるなり見る見る鬼のような形相へと変わっていった。そんな銀時に私は静かに目を伏せた。


「テメェ、その手離しやがれ」

「…あ?!お前誰…」


「そいつァ、俺の女だ!!!そいつに触んなっつってんのが聞こえねェのか!離しやがれ!!!!」


震えるほどの怒気を纏った銀時の怒鳴り声が室内に響き渡って、私は伏せていた目を強く閉じた。




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