Ichika -carré- | ナノ


▼ 2/2 side服部全蔵・坂田銀時



今日はかぶき町夏祭り。俺ァかぶき町の住人じゃねェから、さほど関係のないその行事。だがそのかぶき町に住むジャンプ侍が彼女の浴衣姿を見れる機会をみすみす逃すとは到底考えづらい。絶対にあのバカのことだ「なまえちゃん浴衣着てきてェ〜ん」とか何とか言ってるに違いねェ。…ふざけんな、俺もなまえの浴衣姿を拝みてェ。そんな気持ちで携帯を開き、なまえに電話をかけたはずだったのに。俺の言葉を待たずして聞こえてきたなまえの声に、俺は眉を顰めた。


『あ、服部さーん?お疲れ様ですぅ!もう集金終わったんですかぁ?やっぱり服部さんは仕事が早いですね!』

「…?」

『ちょっといいづらいんですけどぉ、ちょっと清猫組の人とトラブっちゃって…纏まったお金持ってきてももらえません?…もちろん、頭には内緒で!』


集金?何の話だ、と思うや否や聞こえてきた清猫組という言葉に、俺の背筋にひやりと汗が流れた気がした。なまえの身に何か起きている。あれだけ破天荒な女のことだ、極道もんに何か恨みを買っていてもおかしくはない。それが遊郭街の自警団とあらば、余計に。俺は咄嗟になまえに合わせるように声を顰めた。


「…わかりました。で、いくら用意すればいいんですか」

『3000万ほど。…つーかここどこ、どこに持ってこさせりゃいーの?』


後ろでボソボソと聞こえてきた男の声。町の外れの廃倉庫。ここからじゃそんなに時間はかからねェ。わかりました、と電話を切ろうとすれば聞こえてきたなまえの小さな言葉。


『…くれぐれも、他言無用で、ね』


パチンと携帯を閉じて身支度を整え屋敷を離れようとした俺は、どうすべきか悩んでいた。他言無用っつったって、こいつは本当に金を持ってきてほしいわけじゃねェだろう。だから俺にこの役を任せたんだろう。それならば、…もう一人いた方が心強ェってもんだ。わりーな、なまえ。後からヤローにどやされんのは御免だ。指定された廃倉庫へ向かう足を止めて、急いで万事屋へと向かった。



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「遅ェ…」


そわそわと室内を右往左往する俺を宥めるものは誰もいない。なまえと夏祭りに行くと神楽と新八に告げれば、気を使ってくれたらしい二人は妙と三人で一足先に祭りへと向かった。


「その代わり祭りが終わったらなまえ連れて帰ってくるヨロシ!銀ちゃんばっかなまえと会ってズルイアル!」

「わーったよ、お前がそう言うんじゃアイツも喜んでくると思うぜ」

「約束アルからな?!」


家を出る寸前までうるさい神楽たちに手を振り、待つこと30分。約束の時間はとっくに過ぎているのに、なまえの姿は見えないどころか連絡もこない。というか連絡がこないのには理由がある。…うちの電話、止まってんだよね。


「クソ!ババアんちの電話借りてくるか…あ、でもババアも町内会の手伝いやらでいねェのか?…あーもう、アイツ何してんだよ…」


再三にわたり浴衣を着てくるようお願いして、ようやく許可がでたもんだから、俺も自身の浴衣を引っ張り出してババアに着付けてもらったっつーのに。まさかこの後に及んでドタキャンか?!そんなに浴衣着たくなかったのかな!?数分前に見た時計をもう一度見上げて、ため息を落とす。


「…まさか何かあったのか…?」


ドタキャンなんてするような女じゃないことは、重々承知。だとすれば考えられるのは、寝坊?仕事が入るわけもねェだろう。そこんとこは月詠がうまくやるだろーしな。アイツの身に何かあったなんて、そんなこと万に一つもねェだろうとは思うが。少しだけ胸騒ぎがした俺はちょっと近所まで見に行ってみるかと玄関に向かった瞬間、勢いよく玄関のガラスを突き破って飛び込んできた人物に、額に青筋が立つのを感じた。


「…オイ、こりゃどーいう了見だ。人んちの玄関壊して隣の晩御飯でも聞きにきたのか?あァ!?」

「ジャンプ侍、落ち着いて聞け」

「お前も人の話聞けよ!」

「なまえが清猫組に攫われたかもしれねェ」

「…は?」


突然やってきたイボ痔忍者。先日まで嫌という程見てきたその顔を当分拝むつもりはなかったというのに。ヤローの言葉に顰めていた眉が解けていくのがわかった。清猫組?攫われた?一体何の話をしているんだ。


「さっきなまえに電話かけたら様子がおかしいんで、アイツが一方的に話す話に乗ったんだ。金用意して指定した場所まで来いとさ」

「…何でなまえが清猫組なんかに目ェつけられてんだよ」

「知るかよ。ただ清猫組っつーのは表向きやれ不動産だ何だと文字通り清い仕事しかしてねェこと謳ってるヤクザもんだ。だが黒い噂が絶えねェのも事実。人攫いで金儲けしてるっつー話はよく聞く」

「…人攫い?んじゃまさかそいつら…」

「恐らく金は身代金だろう。それを持って来させた上で、条件を反故するつもりなんだろうな。まさかなまえが話した相手が元御庭番とは思ってもいねェだろうからな」


ヤローの言葉をじわじわと理解するなり、脳が思考を拒否しているように感じた。黙って木刀を手にした俺に、ついて来いという風に玄関の外に出たヤローの後を追った俺は、気が気じゃなかった。いつものように見られると思っていた、なまえの笑顔。待たせたな〜なんて少しも悪びれることもなく笑ってみせるなまえを咎めながら、また一つ思い出を作れると思っていたのに。
極道もん?人攫い?身代金?日常で聞くことのない言葉ばかりが耳に残って余計に不安を煽る。なまえだって腕がないわけじゃねェ。何事もなく、解決するはずだ。そう思い直しても、消えることのない胸騒ぎを掻き消すように、思い切り奥歯を食い縛った。




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