Ichika -carré- | ナノ


▼ 3/3



あれから海の家で買ってきたイカやらフランクフルトやらを食べ終えた私たちは、休憩と言わんばかりに各々で気ままな時間を過ごしていた。神楽と新八はまた飽きもせずに浅瀬でボール遊びをしているし、猿飛と月詠は嫌がる全蔵を砂に埋めて楽しんでいるし、銀時は私の膝の上でいびきをかいて爆睡している。私も全蔵埋めたいのに、銀時が邪魔で動けない。足も痺れてきたし、いい加減どいてほしい。ねぇ、と声をかけようとしたと同時に、銀時はんーと声を出しながら小さく身じろぎをした。


「……なまえ、」

「あれ、起きた?」

「……」


銀時を覗き込めばその瞼は閉じられたままで、規則的な呼吸を繰り返している。ちぇっ起きてねーし。もう足痛い!私も全蔵生き埋めにしたい!みんなのとこに行きたい………って、え、待って。銀時起きてないの?何、今の寝言?寝言で私の名前、呼んでたの?パチパチと瞬きをしてもう一度銀時の顔を覗いても、当たり前だが返事は返ってこない。眠っているのだと再確認したところで、私はぼっと顔が熱くなるのを感じた。


「…何だよ、それ…」


銀時がうざったいほどに私のことを好きだということはわかっていたつもり。あれほどの言動や行動を繰り返されれば嫌でもわかる。だけど、こう無意識に名前を呟かれるとこの男の中で私という存在がどれほど染み付いているのかということを実感せざるを得なくて、じわじわと滲み出す嬉しさを隠しきれない。


「…どんだけ私のこと好きなの、お前…」


真っ赤になっているだろう顔を銀時の顔に寄せて、閉じられたその唇に自身の唇を静かに合わせた。何でこんなことをしたのか、自分でもよくわからない。だけどこれもまた無意識に、そうしたくなってしまった。心底、銀時を愛おしく思ってしまったのだ。…と、不意に気配がしてパッと顔を上げれば、先ほどまで離れた場所で遊んでいたはずの神楽に新八、そして月詠に猿飛、砂まみれになった全蔵が固まったように目の前に立ち竦んでいる。その光景を見るなり私も同じくピシッと固まってしまった。


「………」

「いや、あの、…なまえさんも意外とそういうところあるんですね…」

「…ぬしら、見なかったことにしてやりなんし」


月詠の言葉に我に返った私は膝に寝転がる銀時を勢いよく蹴飛ばして「違う、これは!」と慌てて取り繕うももはや猿飛と全蔵すらも呆れて何を言うこともなく、そして私の反論をも聞き入れようとはしなかった。突然蹴飛ばされた銀時は、何が起こったのかわからないと言う風に蹴られた頭を押さえながら「えっ?何、何!?」と私たちを見比べるもんだから、私は焦りと恥ずかしさが相待ってもう一度銀時を蹴飛ばした。


「お前のせいだ!バカ!アホ!天パ!」

「いてっ!いてっ!ちょ、マジなんなのォォォ!?





----------



気を取り直してスイカ割りをしたり(スイカ割りとは名ばかりで神楽がスイカを粉砕させたからもはや何の遊びだったんだろうねアレ)、男女に分かれ真剣にビーチフラッグ対決をして私ら女性陣が完勝してみたり(こちらもルールをよく理解していない神楽によって何故かボコボコに殴られた男性陣には同情しかない)、月詠をナンパする男を私が蹴散らしたり(ちなみに猿飛はされてなかった。「何で私には声かけないのよ!」とかなんとかすんげー文句言ってた。無論私も銀時による全力の守備の元、ナンパの被害に遭わずに済んだ)。



「日が暮れてきたから風邪引く前に行くぞー」

「「はーい」」


今日一日しっかり仕切り通してくれた全蔵が、パーカーを羽織りながら片付けを終えた私たちに声をかけた。その声につられて海辺に目を向ければ、いつの間にか遠くの水平線から夕日が顔を出している。確かに少し肌寒くなってきた。ずっと羽織っていた銀時のジャージは水に濡れていて、それが更に肌寒さを助長させる。バスに向かうみんなの後を追おうとしたところで、最後まで残っていた銀時に呼び止められた。


「なまえ、携帯出して」

「え?…いいけど、なんで?」

「こーいうとこじゃねーとこんなでけー夕日見れることねェだろ?写真とろーぜ」

「…お前本当女子高生みてーだな」


苦笑いをしながら荷物の中から携帯を取り出して銀時にそれを手渡した。片手を広げて近づくように促す銀時の胸に飛び込めば、その衝撃でシャッターを押してしまったらしい。


「飛び込んでくるこたねーだろ!間違えてシャッター押しちまったじゃねェか」

「でもみて、なんかすんごい楽しそうじゃない?」


携帯を覗き込めば、画面に映された随分と自然な写真。驚いているような表情の銀時に、楽しそうに笑う私が夕日をバックに映されている。「…まぁ、悪くねーな」と口を尖らせる銀時にもう一度笑ってみせると、銀時はつられたように優しく笑って私を引き寄せて軽く唇にキスを落とした。


「なまえ、これからも色んなとこ連れてってやるからな」

「…うん」

「だから、…」


こそっと耳元で小さく囁かれた言葉に、心臓が締め付けられたように痛くなる。遠くで「置いてくぞー!」と叫ぶ全蔵の声が聞こえて、私たちはもう一度笑い合ってみんなの元へと走った。初めての海は死にかけたりもしたけれど、すっごい楽しかった。まぁどう考えても楽しいだろうメンバーで行ったのだからそれは当たり前だとしても、本当に本当に楽しかった。でもそれはやっぱり、隣に銀時がいるからなんだろうと実感した。先ほど耳元で囁かれた突然の愛の告白に心の中で返事をした。「そんなの、言われなくったってそのつもりだよ」と。


…『これからもずっと俺の隣にいろよな』


どんな景色を見てもどんなに美味しいものを食べても、隣が銀時じゃなければきっと何も楽しくないんだろう。銀時が隣にいるから、何もかもが色付いて見えるのだろう。銀時は吉原の景色しか知らなかった私の世界を広げてくれた。楽しいこと、美しいもの、美味しいものがもっとたくさんあるのだと教えてくれた。…銀時が私の世界を変えてくれたのだ。

だとすれば、この世界を作った銀時がその手でこの世界を壊すなんて、何もおかしいことはなかったのかもしれない。

それでも。
例え壊れてしまう結末が待ってたとしても、この世界を知らずに生きる選択肢なんて、きっと私にはなかった。

そう言い切れるほど、…銀時は私の全てだったんだよ。



prev / next
bookmark

[ back to main ]
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -