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「何じゃ、ぬし海も知らぬのか」
「ねぇ、うみって何!!?美味しいの!?」
「わっちもテレビでしか見たことありんせん。じゃが美味しいというのは一体…」
「何するところなの?何が美味しいの!?」
屯所にいた月詠をひっ捕らえて矢継ぎ早に質問をする私に、驚きながらもちゃんと対応してくれるのはもういい加減私の性格をわかりきっているせいだろう。わくわくと笑顔を向ける私に、月詠は眉を上げてぴんと人差し指を立たせた。
「水練をするところじゃ」
「………は?…水練?」
「そうじゃ、自然にできた水練場と言うべきか」
「……」
水練って、あの水練だよね?水面に顔をつけて、何だか心許ない下着の延長みたいな格好をして、ばしゃばしゃぶくぶくする、あれだよね?
顔を真っ青にする私に何か思い出したような顔で私を覗き込む月詠。そしてすぐにその顔は破顔した。
「そうか。ぬし、泳げな…」
「ばっ、声がデカイ!!!!」
もごっと月詠の口元を手で覆いくわっと眉を釣り上げれば、わかったと言う風に月詠はこくこくと頭を縦に振った。百華の連中に聞かれればまた弱味を握ったとほくそ笑む姿が容易に想像できる。これ以上弱味を作るわけにはいかない!ようやくその口元を離すも、心なしか口角がゆるっと上がっている。
「そうじゃったな。ぬしに唯一勝てたことといえば水練じゃった。…その水練、いや、海がどうかしんしたか」
「…銀時と全蔵に行こうって言われたんだけど、無理!マジ無理!絶対笑われる!!」
月詠が言う通り、私は唯一と言っていいほど苦手な分野がある。それが正しく水練なのだ。昔に吉原の外れにある人口の川で地雷亜と月詠とで修行をしていたのだが、なぜかめっきり上達しなかった。それどころか顔を水につければパニックを起こして溺れてしまう始末。私はそれから水練どころかその川に近づくこともできなくなってしまった。風呂は平気なのに、不思議だよね。
急いで銀時に電話をかけるも留守なのか繋がらず、あわあわと慌てながら全蔵にかければ2コールも鳴らずにすぐに電話は繋がった。…暇人フリーター忍者め!
「全蔵!!」
『なんだ、慌てて。急用か?』
「急用も急用!私、海無理!行けない!!」
『はァ?何でだよ、あんなにわかりやすくワクワクしてただろう。ていうか今バス予約しちゃったんだけど』
「何でだよ!考えとくって言ったろーが!!」
『お前さんの考えとくは肯定だろ?ジャンプ侍も人の金だと思って行く気満々だしよ。がめつい野郎だ』
「…そんなぁー!!!」
がっくりと肩を落として額に手を当てる私を、月詠は同情の眼差しを向けてきた。しょんぼりと眉を下げた私は、月詠を見つめ返しながら「あっ」と声を上げた。
「ねぇ、それっていついくの?いつ予約したの?」
『来週の木曜日だ。ちゃんと水着用意しとけよ、白な、白!』
「……ねぇ、それもう一人人数増やすことできない?」
『…お頭か?構わねェよ、こっちも万事屋の連中とは別に助っ人を呼んでるんだ』
「わかった!それならいくよ、仕方ないから。ていうか私は水に触れないから!絶対!け、潔癖症だから!!!」
それだけ言い残し終話ボタンを押した私は、月詠に満面の笑みを向けた。そんな私を不思議そうな表情で見るなり、すぐに眉を顰める月詠は本当に理解が早い。私は屯所内に響き渡るほどの声量を上げた。
「来週の木曜日は、頭と副頭は水練の修行に行ってきまーす!!!」
「何でわっちもじゃァァァァ!!!!」
漏れなく月詠の声も屯所内に響き渡ることとなった。全力のクナイ攻撃と共に。
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