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「「いただきまーす!」」
万事屋の机に並べられた弁当を囲いながら、銀時と私、そして神楽と新八はぱちっと手を合わせた。あれから真選組の連中にお礼を言って土方になじられながら屯所を後にした私たちは雨の中スクーターに乗って万事屋へと向かった。万事屋につくと待っていましたと言うように神楽と新八に出迎えられて、ようやくお披露目することになった渾身の弁当。
「美味しそうですね!卵もすごい綺麗に巻けてますね」
「なまえ!なまえ!これ何アルか?定春のウンコウィンナーアルか?!」
「定春のウンコなんて誰が作るか。これはイモムシさんウィンナーですぅ」
「ふーん、思ってたより上手そーじゃねーか」
「でしょ!!?4時間かかったもんね」
えっへんと威張る私に苦笑いを浮かべる銀時と新八を尻目に我先にとウィンナーに手を伸ばす神楽。それを合図に銀時と新八もおかずに箸を伸ばした。私は明太子おにぎりを手に取りはむっと頬張れば、心なしか塩っ辛いが、食べれなくもない。
「だし巻き卵絶妙な味付けで美味しいです!」
「でしょ?五回目でやっと作れたの。難しかったんだから」
「つーか唐揚げデカくねェ?」
「何となく大きい方がお得感あると思って」
「ウィンナーうまいアル!」
「……まぁ焼いただけだしね」
ガツガツと大人気なくおかずやおにぎりを頬張る銀時に、美味しい美味しいと食べてくれる神楽と新八。ちょっぴり遠回りしたけれど、やっぱり持ってきてよかった。散々振り回した真選組の連中には悪いことをしたが。仕方ないから何か手土産でも買ってってやるか。…経費で。
「つーかよ、このエビフライすんげー上手くね?!エビフライが一番うめーわ」
「…」
「僕も思いました!衣の付き具合とかすごい綺麗ですよね」
「……それ、冷凍食品なんだけど」
「「………」」
「なまえ、私はウィンナーが一番美味しいアル」
「神楽、やっぱりお前が一番可愛いよ。…お前らはもう死ね!ボケ!」
「じ、冗談だよなまえちゃーん?なァ、ぱっつぁん」
「は、はい。一番美味しいのはだし巻き卵でした、ね、銀さん!?」
「いーや唐揚げだね、唐揚げが一番うまい。あと鮭のおにぎり」
「何か悲しくなるからもういいわ!」
物の見事にすっからかんになった弁当を見て、私は一安心した。めちゃくちゃ残されたらどーしようかと思っていたが、そもそも万年金欠のこの万事屋がタダメシを残すなんてことあるわけがない。別の容器に入れていたウサギのリンゴを出せば、三人とも次々にリンゴに手を伸ばした。
「こーんな愛妻弁当が危うくあのニコ中の腹ん中に入ってたと思うと考えただけでぶっ殺したくなるわ」
「ホントネ!あのサディストなんかに食われてたら一生許さないアル!食べ物の恨みは恐ろしいんダヨ」
「まぁまぁ、結果的に食べることができたんだからいいじゃないですか」
「さ、腹もいっぱいになったことだし行きますか」
「えっどこに」
隣に座る銀時ががしっと私の肩に手を回して立ち上がる。つられて私も立ち上がればそのまま玄関へと向かった。どこか嬉しそうな顔の新八と神楽も後ろについている。私の赤い和傘を手にとった銀時はそのまま私の腕を組んだまま階段を降りだした。
「えっ、なに、マジで何」
「いーからいーから」
「見て見て、なまえがくれた傘ダヨ!可愛いアルか?」
「あ、可愛い。やっぱり似合うね、買ってよかったよ」
「神楽ちゃん、そんなに振り回すと壊れちゃうよ」
和傘を差した銀時に促されるまま相合傘をして町内を歩く私たちはこんな天気だというのにきゃっきゃと笑いながらどこかへ向かった。と、辿り着いた公園の光景を見て、私は大人気なく「キャー!!」と声を上げてしまった。
「何これ!ねぇ、うそ、何これ?!」
「本当は雨止んでからこよーと思ったんだけどさ。すげーだろ?桜の絨毯みてーだろ?」
眼前に広がっているのは雨に濡れた地面、ではなくピンク色に包まれた世界。なるほど、雨が降ったせいで桜の花が散ってそれが地面を覆い尽くしているというのか。どんよりとした天気の中眩しいくらいのピンク色に私は思わず頬が緩んでしまう。
「姉上が教えてくれたんです。ここの公園雨が降ると綺麗な桜絨毯ができるって」
「お弁当作ってくれたお礼に、なまえをここに連れてこようって、銀ちゃんが」
「オイ神楽テメー!余計なこと言うな!!」
「…そうなの…」
恥ずかしそうに神楽を咎める銀時を見つめていると、じんわりと涙が瞳を覆う。そんな私を見て慌てふためく三人に涙を拭いながらごめんごめん、と謝った。
「ちょっと嬉しくて、…ありがとね」
三人に笑顔を向ければ、帰ってきた柔らかい笑顔。色々あったけど、弁当、作ってよかった。
しばらく公園内を見て回ったり、途中お団子本舗に寄り道したり、万事屋に帰ってみんなでテレビを見たりウノをしたり。何だかんだで楽しい休日を過ごせた。一時はどうなるかと思ったが、私が帰るまで万事屋からは笑い声が絶えなかった。
そして翌日銀時は熱を出したのは言うまでもない。責任を感じた私が二日間に渡って看病をしたのはまた別の話。
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