▼ 2/2
「どー思う!?本当に心ないやつだと思わない!?」
後頭部から身を乗り出して、土方と沖田に食ってかかる勢いで私は先ほどあった出来事を愚痴っていた。二人とも全っ然興味なさそうだけど気にしない!だって誰かに聞いて欲しかったんだもん!!!
「けど姐さん、別に嘘つかなくたって素直に作っちまったって言えやよかったんじゃねーですかィ」
「まぁ、…そうなんだけどさぁ。なんか悲しくなっちゃってさぁ」
「万事屋まで送ってってやるから続きは本人に言え」
「嫌!絶対嫌!ねぇ土方、どーせ暇でしょ?真選組の屯所まで連れてって!」
「暇じゃねェよ!!!お前警察なんだと思ってんだ!?」
「一緒に弁当食べてくんない?さすがに一人で食べきれる量じゃないんだよね」
「誰があんな天パ野郎の女の弁当なんか食うか!」
「いーじゃねェか土方さん。どーせ暇なんでィ、少しくらい」
「だから暇じゃねェっつってんだろ!つーか総悟、お前前から思ってたけどこいつに甘くねェか」
「敵に回すとメンドくさそうなタイプの女でさァ」
ちらりとこちらに視線を移す沖田に親指を立てて見せればふっと笑う顔が可愛らしい。つーか神楽2号みたいで可愛いな、沖田。ブツブツうるさい土方の首を後ろから締めれば「わかった、わかったから離せ!事故る!!」と真選組に連れて行ってくれることになったので、私は一先ず安心した。携帯を開いても特に銀時からの連絡はないし、いよいよ楽しみにしていたのは私だけだったのかと肩を落とした。そんな私をミラー越しに見ていた土方は呆れたようにため息をついている。
------
「ゴリ……近藤さーん!こんにちわぁ」
「ん!?あんたは万事屋んとこの!デコボッコ教のときは世話になったな」
「いえ、こちらこそ。お久しぶりですね」
「今日はどうしたんだ?何かうちに用か?」
あからさまな猫なで声を出す私に向ける土方の視線が痛い。ぴっと土方と沖田の方を指差してにこっと近藤に笑顔を向けた。
「土方…さんと沖田くんとお約束してたんですぅ」
「トシと総悟と!?こりゃ珍しいこともあるもんだ。むさ苦しいところだがゆっくりしてってくれよ」
感じのいい笑顔を向けて去っていく近藤に頭を下げれば後ろから思い切り土方の拳が飛んできた。ひょいっとそれを避けると悔しそうに眉を顰める土方のツラが面白い。
「お前何嘘ついてんだよ!?つーか何で近藤さんにだけ明らかに態度が違ェんだ!おかしいだろォォォ!!!」
「さすがに真選組局長を呼び捨てにしたり失礼な態度とるなんて、そんなことしねーよ。いい顔しとけば後々いいことありそうだし」
「下心しかねェじゃねーか!!!腹黒すぎんだろォが!」
「さすが旦那の女でさァ」
「…ったく。オイ、こっちだ」
顎をしゃくって屯所内を案内する土方、沖田に続いて屯所に足を踏み入れればすれ違いざまに私に挨拶をする隊員たち。うちの連中もそうだが、やはり組織というのは礼儀正しいに限る。気持ちがいいことこの上ない。デコボッコ教のときに面倒見ていたのをしっかりと覚えてくれているようだ。
「久しく使ってねェ客間だから少し埃クセェけど文句言うな」
「へぇ、真選組屯所ってやっぱ広いんだねーいいなぁ。税金で百華の屯所も増築してくんない?」
「しらねェよ!吉原のことは吉原でどうにかしろ!」
「うっわ、ケチくせーの」
「口の減らねェ女だ…茶でも持ってきてやるからここで待ってろ」
「え、土方さん、それ俺も行かなきゃダメですかィ」
「当たりめェだろ!いいからさっさとこい!」
へいへ〜いとけだるそうに返事をしながら客間から出た土方に続いて沖田が立ち上がる。部屋を出る間際、小さい声でボソッと囁いた「姐さん、悪く思わないでくだせェ。俺ァまだ死にたくねーんだ」と言う言葉に首をかしげた。ぴしゃんと戸を閉められて薄暗い客間に残された私は、特にその言葉の意味も考えずに縁側の戸に手をかけた。開いた襖の外には、綺麗に整えられた庭が広がっていて、公務員ってすげーななんて感心していた。
「…まだ雨降ってる」
そんなことを独りごちたと同時に外から聞こえてきた何かのエンジン音。何かどこかで聞いたことあるよーな、ないような。そんなことを思っているとすぐ側でそのエンジン音が止まって、そして少しだけ聞こえた怒鳴り声のような、喚き声のような声。これまた何かどこかで聞いたことあるよーな、ないような。次いで聞こえてきたドタバタと廊下を走る足音を聞いたところで、ぼんやりとしていた脳内がじわじわと覚醒し出した。
『姐さん、悪く思わないでくだせェ。俺ァまだ死にたくねーんだ』
……ちょっと待って。まさか、あいつら。
スパーンと音を立てて開け放たれた戸の先に立っている水浸しで荒く呼吸を吐く人物を見て、私は思わず頭を抱えた。
「…なに今度はポリ公と浮気してんだよ、バカ女」
あの二人、謀ったな。くそったれ!!!
prev / next
bookmark