▼ 真面目なアイツ 1/2
銀時との晩から数週間。早いもので鳳仙の崩落からふた月が経とうとしていた。人目の少ない外れの裏道で、こそこそと忍び足で家屋に隠れる男が二人。
「そこの男どもー、止まれ、死にたくなければ止まれェー」
「…お前らは、ひゃ、百華!」
「そーそー、だから止まれェー」
「アニキぃ!ヤバイっスよ!こいつ、百華の副頭です!赤の死神太夫です!」
「そーそー、よく知ってんじゃん?止まれってー」
「こんなやつが副頭?…そりゃ間違いじゃねェ…」
「止まれっつってんだろォが、ボケナス共がァァァ!!!」
一向に止まる気配のない男二人組に、クナイを打ち込んだ私は、地面に倒れた二人組の男の元へと近付く。その後ろには、百華の見廻り隊がずらりと並んだ。
「あんたら金払わずに、トンズラしよーとしたんだって?鳳仙がいなくなったと思ったら、今度はこんなチンピラに手を焼くことになるとはねェ」
「か、勘弁してくれェ」
「しねェよ!せっかく今日は早く帰って、お通ちゃんの特番みる予定だったのに、テメェらのせーで!」
伸びてる下っ端をつま先で小突いて、わなわなと後ずさるアニキとやらの股間を力任せに踏みつけた。
「うぎゃァァァァァ」
「副頭!!そいつのそれ、使い物にならなくなっちゃいますよ!」
「金も払わねェでおチン●遊びしようなんざ、100年早いんだよ、こんなん使えなくなっちまえ!!このッ!このッ!」
「副頭ァァァ!!泡吹いてますゥゥゥ!」
「はいはい、こいつら連れてっちゃってー」
ケッと眉を顰めて、立ち去ろうとした私の前に、何故か嬉しそうな顔の月詠の姿があった。その顔を一瞥して横を素通りしかけたところで、月詠はオイ!と声を荒げるもんだから、仕方なく振り返った。
「頭、なんですかぁ」
「なまえが直々に出向くなど、珍しいこともあるもんじゃ」
「失礼なやつぅー。私だって一応仕事しますぅー、下に示しがつかないんでね」
「それもそうじゃな」
「…それに」
私の隣に並んだ月詠は、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。その顔を見て、ふっと微笑み私はまた歩き出した。
「最近はまた治安が悪くなってきたから。あんまり下のやつらを危ない目には合わせらんねーから、私か月詠が出ときゃ、間違いないっしょ」
「…確かにそうじゃな。ここ最近、鳳仙がいた時に比べると、悪行を働く輩が増えてきておる」
「少し痛めつけてやんないと、どんどん増えていくばっかだからね。仕方ねーから少しの間うちらは非番を取るのはやめにするか。他のやつらには勝手なことをしないように言っとくから、よろしくねん」
「…わかった。ぬしもせいぜい気をつけるんじゃぞ」
ひと月前の静けさはどこへやら。ここ最近の吉原は、攘夷志士共の蛮行に手を焼いていた。今回の様に支払いを踏み倒す輩や、窃盗。数え出したらキリがないほどに、吉原は悪に汚染されつつあった。鳳仙が倒れたのをいい事に、チンピラ共が悪事を働き始めているのだ。はぁっとため息をついた私に、月詠は困った様に笑いかけた。
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