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「ただいま〜俺たちの愛の巣」
クリス星から出て我が家に帰るまで、銀時は気持ちが悪いほど上機嫌だった。そりゃ私だって嬉しいけれど、万事屋の二人や真選組のやつらもドン引くほどにるんるんらんらんしている銀時に、私は呆れも通り越して無表情だった。
「とりあえず風呂入ってくるから!あ、やっぱ一緒入る?」
「いや入んないから先入っていいよ」
「俺が出たら絶対すぐ入れな?!わかったか!?」
「はいはい」
ギシギシと音を立てながら風呂場へ向かう銀時を目で追いながら、私は冷蔵庫に手を伸ばした。あ、また先飲むなって怒られるかな。…まぁいいだろ、今日は何だか飲みたい気分だし。あーあ、明日から地上のキャバクラの後始末をしなければならないし、何人か吉原に引っ張れるといいなぁ。結構可愛い子多かったんだよなぁ。そんなことを思いながらビールを飲み込んで、ふぅっとため息を落とした。
何はともあれ一件落着してよかった。あんな形ではあったが月詠から話を聞いていた妙や九兵衛にも会えたし。つーか妙なんて初対面なのに貧乳だとか何とか言っちゃったよ。だって私より貧乳って!私だってCあるかないかのレベルだけど、アレえぐれてんじゃねーか!ちょっと安心しちゃったよ!今度会うときはちゃんと謝らなければ。
「出たぞー」
「早ッ!お前ちゃんと洗ったのかよ」
「洗ったに決まってんだろ!今日は酷使する予定からいつもより念入りの念入りで洗ったっつーの!」
「しねーよ!勝手に予定立てんじゃねぇ!」
続いて風呂に入り、上がった頃にはすっかり外も暗闇に包まれていた。いつものように私の髪の毛を乾かす銀時が鏡越しに見えて、ぼんやりとその表情を見つめていた。いつにも増してだらしない顔をしている。
「やっぱ女だよな、うん。女のなまえがいいわ」
「だろーね。私も男の銀時がいいもん」
「長い髪に、細い腕に、白い肌…まぁ胸はねーけど」
「うるせーな余計なお世話だよ!」
カチッとドライヤーを止めた銀時は、静かに私を後ろから抱きすくめた。首元に顔を埋めてすーはーすーは音を立てて匂いをかいでいる。「やめろ、キモい」と鏡越しに睨み付けると、嬉しそうに破顔する銀時につられて、私も口元を緩ませた。
「なまえ、こっち向いて」
「ん」
ゆっくり身体を銀時に向き直らせて、優しい表情で私を見つめる銀時を見つめ返した。大きな手のひらが私の頬を捉えれば、珍しく控えめに私の唇を奪う。二、三度啄ばむように唇に吸い付けば、静かに離れてまた笑みを浮かべた。
「ずっと我慢してたんだからな、今日は絶対…、」
「寝かさないで」
銀時が言い終わるより先に、私は柄にもない言葉を呟いた。驚いたように目を見開いてパチパチと瞬きをする銀時の唇を、今度は自身の唇で塞いだ。
「……私だって、我慢してたんだから」
私の言葉に照れたように眉を下げた銀時は、勢いよく布団の上に私を押し倒した。久しぶりに肌で感じる銀時の体温に嬉しさで涙が溢れそうになる。もしずっとあのままだったら、きっともう一生触れ合うことはなかっただろう。そう思うとやるせない気持ちに襲われて苦しくなる。なんてことないこの交わりすらもとても大切なことに感じる。戻った今だから言えることだけど、ああいう風になってよかったのかもしれない。相手の大切さを再確認できたのだから。
…それにしても何だかぎこちない動きの銀時。そして、私も何だか拭えない感情が胸をいっぱいにして集中できない。苦笑いを向けてくる銀時に、察したように私も苦笑いを浮かべた。
「勃たない」
「濡れない」
だって何か女の時の銀時が頭から離れなくって集中できない!!!!銀時も同じ現象に襲われているようで「もういねーんだ!なまえ♂はもうこの世にゃいねーんだ!だから銀さんの銀さん反応してェェェ」と頭を抱えて嘆いている。
結局その晩は何も出来ずに眠りについたどころか、ようやくお互いの脳内から銀子♀となまえ♂がいなくなって身体を重ねることができたのは、クリス星から戻った一週間後であった。
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