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「いやァ、やっぱこれが一番落ち着くわ」
クリス星に到着し、元の姿に戻ることができた私たちは地球に戻らんと船に乗り込んでいた。例によって乗り物に乗り慣れない私は行きと同様に真っ青な顔で背筋を正し、銀時の腕にしがみついていた。行きは私がまだなまえ♂だったせいで「キショいよ!」と辛辣な言葉を吐きかけて冷たい態度だった銀時も、無事に元の性別に戻ることができたおかげで素直に私にしがみつかれている。それも少し嬉しそうでもある。
「銀時、今ここで船が爆破したら私らどうなっちゃうの」
「宇宙の塵になんだろ。つーかお前ほんと乗り物苦手な」
「だって…」
「ちょっと!なまえ!そこどきなさいよ!銀さんの隣は私の席よ!」
「…猿飛」
真っ青な私に目もくれずにガタガタと震える私の手を引く猿飛に、私は思わず抱きついた。猿飛は「ギャ!」と声を上げているが構わない。
「猿飛、銀時の隣座っていいから、お前の膝の上座ってもいい?」
「いいわけないでしょ!あーもう!いつまでくっついてるのよ!ツッキー、あんたなまえのお守りはどうしたのよ!」
「……オボロロロ」
「ってあんたも乗り物ダメだったの!?!」
「わっちら地下の人間じゃ。こんなもの乗り慣れているわけな…、…オボロシャァ……」
「キャラじゃないことしないでよ!あんたがそうなったら誰がツッコむのよ!」
私から離れ船酔いをする月詠に駆け寄った猿飛を横目に、私はまた銀時の隣に座りなおした。神楽と新八は寝ちゃってるし、真選組と百華は後ろの方でトランプだか何だかをやっているし、九兵衛は窓からぼんやりと宇宙の宙を見つめている。つられて窓に視線を移した私は果てしなく広がる宇宙の宙にまた恐怖が襲ってきて、ぎゅっと銀時の腕を掴んだ。銀時はそんな私に微笑みかけて耳元で小さく囁きかけてくる。
「…あーやっとなまえちゃん」
「…んー。何だかんだ男も楽しかったけどね」
「…あ、今日そっち泊まっから」
「…んー」
見上げれば銀時は眉と口角を上げて随分意地の悪い顔を向けてきた。下心しかないその表情に呆れながらも、私はそのまま銀時の肩に頭をもたげた。大きな手のひらに、骨ばった体に、少しだけ熱い体温。やっぱり私はこれじゃなきゃ嫌だ。どんなに中身が同じとはいえ、男の銀時でなければダメなのだ。銀時の顔色を盗み見れば、同じく安堵の表情を浮かべているということは、きっと同じことを考えているのだろう。私も自然と笑みがこぼれた。
「おうおう、テメーら人前で何ベタベタしてやがる。公然わいせつ罪でしょっぴくぞ」
「うわ、銀時見て。豚が喋ってる」
「うーわ、本当だ。なまえちゃん見ちゃダメ!豚が移るから」
「誰が豚だ!もう元に戻ってんだろが!!!」
「あー本当でィ。どーにも家畜くせェ匂いがすると思ってりゃ、土方さんの匂いでさァ」
「くさくねェよ!!!何なんだ!いつからドSトリオになったんだテメーら!」
「銀時ー、ブヒブヒうるさい土方のせいで寝れな〜い」
「もうホント俺こいつ斬りたい。さすがクソ天パの女、腹立つツボを確実に突いてきやがる」
「俺ァ土方さんを斬りてーでさァ」
この数日で何度土方をシカトしたかわからないが、結局最後も土方をシカトして私は銀時の肩に寄りかかりながら瞼を閉じた。性別が入れ替わるなどというとんでもイベントも、ようやく幕を閉じることとなった。そして元に戻った銀時が泊りにくることが、内心少しだけ楽しみだった。この数週間感じることができなかった銀時の温もりを早く感じたいと、珍しくそんなことを思いながら眠りについた。
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