Ichika -carré- | ナノ


▼ ♂の私 ♀のアイツ 1/3



それはそれは心地の良い快晴の空の下。
昨夜猿飛から連絡があり「最近腕鈍ってんじゃない?」なんていただいた気遣いを素直に受けて、我らが百華は猿飛と全蔵の指導の元忍者講習を受けていた。


「あなたクナイの持ち方が違うわよ。クナイはこう持つの!」

「誰か空気嫁の使い方知りてェヤツはいるか」

「あら、あなたはなかなか筋がいいわね。始末屋に入らない?」

「オーイ、誰か空気嫁」

「テメーが空気読め!!!!」


空気嫁片手に講習の邪魔をする全蔵にクナイを打ち込むと「さすが副頭…」なんて親指を立てる全蔵を無視して、珍しく熱心に講習を受ける月詠に声をかけた。


「月詠、どうしたの。はりきっちゃって」

「ここ最近めっきり吉原は大人しくなったからな。こういうときこそ鍛錬を怠らぬようにせんと」

「んー違いないね。たまには手合わせする?」

「そうじゃな」

「全蔵ー!」


短刀を借りようと全蔵に振り返ると、先ほどまでいたはずの全蔵の姿がない。猿飛に声をかけると全蔵は空気嫁をしまいに地下に降りてしまったらしい。少し待っていようかと、的に向かいクナイを投げた瞬間突然視界を強い光が襲った。あちこちで小さな悲鳴が聞こえるところをみると、どうやら私だけじゃないようだ。思わずしゃがみ込めば、すぐにその光は消えてしまった。

…何だ、今の。


心の中でそう呟いて立ち上がり周囲を見渡した私は、広がる光景に言葉を失ってしまった。うずくまる百華のやつら。だが心なしかその体格、細い女の線ではない。がっちりと骨ばった体つきの男たちが頭を抱えている。


「…なまえ、何が…、?!」


後ろから聞こえてきた私の名を呼ぶ声。何となく聞き覚えのある口調。だけど、その声は私の知っているそれじゃない。恐る恐る振り返った先にいたのは、月詠……っぽい風貌をした二枚目の男。私を捉えた月詠っぽい男は見る見る目を見開いた。


「ぬし…!!」

「お前、月詠?…ってうわ!私、何この声!」

「か、鏡…」


顔面蒼白の顔で懐を漁る月詠風の男は鏡を取り出して、私はそれを覗き込んだ。そこに映るは、見覚えのある頬の傷。髪色。瞳の色。だが、どう見ても、男。


「何、これ…」

「一体これはどういうことじゃ…?」


「頭ァ!副頭ァ!!」


太い声で私たちの元へ駆け寄ってきた団員風の男たち。というか、どう見たってこいつらは百華の団員たちである。どうやらここにいる者は皆、男になってしまったようだ。意味がわからない。理解が追いつかない頭を抱えて周りを見渡すが、他のものもどうしてこうなったのか全くわからないと言った顔をしている。


「ツッキー!なまえ!何これ、どういうこと!?」


こちらに駆け寄ってきたメガネをかけた知的な男。だがその見た目はどっからどう見ても猿飛。猿飛でしかない。そんな風貌で普段の女らしい口調で喋りかけてくるもんだから気持ち悪くて仕方がない。


「なんかよく知らねーけど、男になってる。しかも全員」

「一体何なんじゃ。さっきの光が原因なのか?」

「何よ、これ。夢じゃないわよね…?」


「……うわ!!!」



月詠♂、猿飛♂、私で座り込みその周りには百華のやつらが立ち竦む。突然聞こえてきた声に一斉に顔を向けると、動揺を隠しきれていない全蔵が口をパクパクしながらこちらを指差している。


「ま、まさかなまえに猿飛にお頭に…百華か!?」

「ちょっと全蔵!何なのこれ、忍者講習はこんな授業もあんの!?」

「全蔵、あなた何で何ともないの!?さっきの光浴びてないから?」

「……光?」


そうか、全蔵は地下に行っていたのか。私たちすら理解が追いつかないこの状況を何とか全蔵に説明すると信じられないと言った顔で私たちの顔を見比べている。


「それにしてもお前ら、…何だかサマになってやがる」

「え、そぉ?てかせっかく男になったのにこの口調はマズくね?月詠もその顔で廓言葉はヤバイよ」

「そ、そうか?それなら…ん"ん"っ!…俺は月詠だ」

「うわ、それっぽい!!普通に男っぽい!猿飛もそのねっとりした喋り方やめろよ」

「そうね、確かに気持ち悪いものね。……僕は猿飛あやめ。君は?」

「…ん"っ!……俺がなまえだ!」


ウケるー!と三人でケラケラ笑いながら男を楽しみ、互いのキャラ設定をしながらこの何だかわからない状況を受け入れた。全蔵の「女って順応力高ェな…」と呆れた声が聞こえた。

月詠改め月雄♂に、猿飛あやめ改めあやお♂。私は色々設定が面倒なのでそのままなまえ♂。そして百華の団員たち♂。私たちは状況把握のためにかぶき町へ繰り出すことになった。


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