Ichika -carré- | ナノ


▼ 外さないアイツ 1/1



「何にするー?」


荷物をまとめ部屋を後にした私たちは、ロビーにある土産屋で月詠や神楽たちに買っていくお土産を物色していた。置かれた商品の半分以上は食べ物で、どれもこれもうまそうだ。神楽たちには二日も社長を借りてしまったお詫びに私からも何かを買うと提案をした。


「神楽は、…あ、酢こんぶあんじゃねーか。これでいーだろ」

「え、神楽も食べ物でいーの?髪飾りとかじゃなくていーの?」

「いーんだよ、あいつも花より団子だから。新八は適当にメガネ拭きとかでいいから」

「メガネ拭きの土産なんてねぇよ!」


あ、あった。じゃあ新八はこれでいいか。神楽には酢こんぶだけじゃあまりに可哀想かと手に取ったそれは、可愛らしい桜柄の日傘。戦闘用でないことは確かだが、こういうのが一つくらいあってもいいだろう。男だらけの家じゃそんな気遣いすらもしてもらえないだろうから。そして次に探したのは月詠への土産。アイツは私と同じで頭から足先までブランド品ばかりだからなぁ。あげても使ってくれることはないかもなぁ。なんて思いながら目についたのは、紫色の藤の花のガラス細工が飾り付けられた綺麗な簪。思わず手にとって見れば、しゃらんと心地のよい音が耳に届いた。控えめなくせに気品があって思わず目にとまる、まるで月詠を体現しているかのようなその簪を迷わずカゴに入れた。


「月詠にはこれにしよ」

「お前女なのに買い物早くね!?」

「何事もフィーリングだろ」


百華の連中は食べ物の方がいいかとポイポイと饅頭やらクッキーやらチョコレートやらをカゴに投げ入れる私を見て銀時はなぜか目を見開いている。


「え、何?」

「何でお前値札も見ねーでカゴに放り込んでんの?何なの、金持ちアピールなの?!」

「どーせ大した額いかねーだろーが」

「何か俺惨めなんですけど…」

「そー思うなら心を入れ替えて働け」


ぷいっと銀時から顔を逸らしてレジに向かう私に、俺の分も!とどさくさに紛れてカゴをレジに置く銀時に肘打ちをしてそれを阻止した。そして土産を買い終えフロントに向かい清算しようとする銀時を止める。


「お金、私も払うよ」

「いーんだよ。言ったろ?今日はバレンタインのお返しだって。たまには俺にもカッコつけさせてくれよ」

「…あ、そう?」


そういってくれるならこれ以上引き止めても銀時の立場を悪くするだけだ。男を立てるのが女の役目でもある。素直に引き下がりフロントに向かう銀時を少し離れた場所で待つことにした。

それにしても、本当に楽しかった。初めての遠出。初めての電車に、初めての桜並木。初めての温泉に射的。本当に初めてのことばかりだった。あれだけ地上に出たがらなかった私が地上に上がったのも、銀時とが初めてだったっけ。何だか銀時からは初めてのことばかりもらっている気がする。全て大したことはないという風に、私の初めてを掻っ攫っていく銀時に感謝してもしきれない。私にはまだまだ知らない世界がたくさんあるんだと、実感せざるを得ない。そしてこれからも、それを知る隣に銀時がいてくれたら…。


「……あのー」


ふと気付くとこちらを振り返って私に声をかける銀時の顔は、青くなっている。何があったのかと首を傾げ歩み寄れば、その表情には苦笑いが追加された。


「何?」

「わ、わりーんだけど。…金、貸してくんねー?」

「…だから言ったじゃん。で、いくら?」


ぴっと二本指を立てる銀時に財布から取り出した二千円を手渡すと、銀時はそれを受け取らずに私から目を逸らし、レジへと目を移した。心なしかダラダラと汗をかいている。はぁ?と言いながらレジに表示された金額を見て、一瞬にして私の顔から表情が消えた。


【 \ 24,000 】


「…………オイ。銀時」

「…………」

「………お前まさか、二万貸せって言ってんのか」


ぎっと睨み付けると青い顔のままへらっと無理やり笑ってみせる銀時に私は叫ばずにはいられなかった。


「いくら割引券があるからって4000円で旅館に泊まれるわけねェだろーがァァァァ!!!!」

「ぎゃァァァァ!!!」


思い切り銀時に飛び蹴りをかまし、苦笑いをする女将さんに二万を渡して白目を剥いて倒れる銀時を残したまま私は旅館を後にした。

そんなこんなで結局最後までハプニングしかなかった私たちの初旅行は無事に(?)終わりを告げた。
…何でこのバカは最後までカッコよくいられねーんだ、全く。先が思いやられて仕方がない。




prev / next
bookmark

[ back to main ]
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -