Ichika -carré- | ナノ


▼ アイツの私 私のアイツ 1/4



「何でお前が泣くんだよ」


銀時の胸に顔を押し付けながら嗚咽を交えて涙を流す私に、呆れたような声が降ってきた。確かにそうだ。勝手に振っておきながら、涙を流すなんて卑怯なことこの上ない。


「銀時、ごめん…ごめんなさい。勝手なことばっかり言って」

「本当だよ。勝手に別れ話吹っかけときながら、会いたいなんてふざけた話だよ」

「ごめんなさ…私、銀時の傍にいるのが、つらくなっちゃった。月詠が銀時のこと、…好きなのかもって思って、それで、」

「はァ?何それ、じゃお前月詠のために俺と別れたの。そんでアイツんとこいったわけ」


涙を流しながら必死に言葉を繋ぐ。ひくっと声を上げる私の背中に回した銀時の腕に、きゅっと力が入った気がした。鼻をくすぐる銀時の匂いに、私の涙はさらに溢れる。


「でも、私お前じゃなきゃダメだった。全蔵を選べば全て丸く収まると思ってた。でも、銀時じゃなきゃダメだった…」

「…」

「それで昨日吉原に戻って、月詠と話した。全部誤解だって言われた。だから、気にせず幸せになること考えろって。だけど、勝手に振り回して、誤解だったから戻ろうなんて、そんな虫のいい話できなくて。ふざけんなって一蹴されたらどうしようって。もう私のこと嫌いになってたらどうしようって。…だけど、会いたかった。会いたかったんだよ…」


そこまで言って銀時の着流しを握りしめ、私はうわぁんと声を上げた。呆れたようなため息が聞こえたけれど、構わずに私は涙を流した。温かい銀時の腕に、匂いに、胸に。たった一週間、この温もりから離れていただけで、私の心は壊れかけてしまった。勝手に離れたくせに、私はずっと銀時を求めていた。この温もりに、ずっと触れたかった。


「…お前がいなくなった時、俺マジで気が気じゃなかった。愛染香が切れた後、俺がお前を不安にさせてるって日輪から聞いて。だけどそれ以上教えてくんねーし。そんでお前んちで帰ってくんの待ってんのに、全然帰る気配ねーし」

「.…っ」

「そん時頭に浮かんだのはあのバカ忍者だったんだよ。まさかって思って行ったらやっぱりいるし、何なの。本当ぶん殴りたかったわ。ムカついたし、もう知らねーって思った。勝手にしろって、あん時は本気で思った」

「…ごめ、なさ…」


私は銀時の胸から離れて、思わず顔を見上げた。銀時はむっとした顔で私を見たかと思えば、すぐに眉を下げて苦笑いを浮かべた。


「だけど、帰りながら色んなこと考えた。お前は何か抱えてても言わねェから、何かあるのかもしんねーって。何かまた一人で抱えて、苦しんでるのかもしれねーって。まさか月詠のことだとは思わなかったけどよ。本当は今日、またあのバカ忍者んとこーと思ってたんだ。そしたらババアにこれ渡されてよ」


ぐしゃぐしゃになった手紙を見せれば、銀時は肩を竦めて笑った。もう私を一度強く抱きめて、銀時は私の耳元に顔を埋め、小さく呟いた。


「俺だって、お前じゃなきゃダメなんだ。お前がいない生活なんか、何も意味ねェんだよ」

「…銀時」

「言ったろ。お前が背負ってるもん、俺も一緒に背負い込んでやるって。お前は独りじゃねェんだ。俺がいるんだから、俺の気持ちを信じろよ」


心底真剣な声色で囁かれれば、私はこくこくと頷くことしかできなかった。「あのままヤローとどうにかなったら、マジでどうしようかと思った…」なんて絞り出したような声に、私はもう一度ごめんなさい、と謝って大きな背中を抱きしめ返した。




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