▼ 2/2
「ところで、ぎ、…き、きん…、お前は地上で万事屋やってるんだって?」
「途中で諦めんな!!銀時な、金時じゃねェぞ!…それが何だよ?」
「地上は楽しい?美味しい団子とかある?」
「何じゃ、とうとうなまえも地上に出向く気になったのか?」
月詠の言う通り、私は今まで地上に微塵も興味がなかった。衣食住は吉原でことが足りるし、何より私は吉原という街が好きだった。わざわざ地上に出て何かをしようと思うことがなかったのだ。
「いや、そーいうんじゃないけど。何となく」
「仕方ねェな。地上に出てくる気になりゃ、俺らが案内してやるよ」
「そうアル!一緒に定春の散歩に行ったり、ファミレスにでも行くアル!」
ふーん、と顎をさすった私に、月詠はどこか安心したような顔を向けた。本当に団子を食べに来ただけの三人が手を振る姿を見送ると、タイミングよく日輪が帰ってきた。
「あれ?銀さんたちは?」
「たった今帰ったぞ。日輪、ぬしはどこへ行っておったんじゃ」
「やだ、銀さんがあんみつ食べたいって言うから、準備してたのに」
そう言ってお盆に乗った三つのあんみつを見つめて、日輪はため息を吐いた。「仕方ないから私たちで食べましょ」と三人で長椅子に並んだ。
「こうやって、三人であんみつを食べる日がくるなんて、思っていなかったわよね」
「まるで昔に戻ったようじゃ」
「月と太陽が並ぶなんて、変な話だけどね」
はむっと小豆を口に含んだ私は肩を竦めて笑った。そんな私に月詠と日輪は困ったように笑みを向けてきた。
「なまえ、わっちらが月と太陽ならば、ぬしは空じゃ」
「…空、ね」
月詠と日輪は昔から私をそう例える。空なんて、そんな大層なものではない。
何気ない月詠の言葉が、重く心にのしかかった。
prev / next
bookmark