Ichika -carré- | ナノ


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「みんな風上に向かって走れ、煙を吸うな!煙を吸ったやつは目ェ開けんなよー!」


バタバタと煙から逃げ惑う人たちを誘導しながら、私は銀時が見当たらないことに気づいて、辺りを見回した。月詠は新八と神楽に水を持ってくるよう頼んでいる。


「ぶえっくしょいっ!!!」


こんな時だというのに、鼻が詰まって敵わない。あーもう、つーか銀時どこ行った!?水を取りに行ったはずの新八と神楽は手ぶらでよたよたとこちらへ近づいてきた。


「神楽、新八、水はっ…」

「涙でもいいすか」

「何、どーした、何泣いてんのあんたら」

「なまえさん…銀さんが、やられました」


「ヘイ!そこのブーメランハニー!俺と一緒にゲートボールよりいい玉突き合わない?」


声がした方へ目をやると、老女の集団にウィンクをしながらナンパをしている我が彼氏の姿が。私と月詠は呆然とその姿を見つめたまま固まってしまった。


「って何やってんだテメェェェェ!!!」

「…はっ!ハニー!!す、すまねェ、大丈夫だ!お前のおかげでギリギリの所で踏み止まれた…」


まさか、銀時が惚れ薬を嗅いでしまうとは。だが、この様子だと問題はなさそうだ。私に蹴飛ばされ顔面スライディングをした銀時は起き上がって、神楽と月詠の元へと歩み寄る。…ん?つーか、愛染香って最初に見たやつを好きになる薬じゃなかったっけ?


「神楽、月詠」


二人の手をガッと掴んだ銀時は、普段私にしか見せないような惚けた表情で神楽と月詠を見つめた。


「今まで近すぎて気づかなかったが、お前たちは俺にとってかけがえのない存在だと気付かされたよ」

「見境なしかィィィィ!!」

「な、なんてこった…熟女もロリコンも関係なし、女性を見れば揺りかごから墓場まで手当たり次第口説く、とんでもないすけこましになってるぅぅ!!」


なまえさん!と新八が不安げな表情を向けてくる。だが、一番驚いているのは私自身だ。何その顔、何そのセリフ!お前のハニーはここに居るんですけど!?!


「オイテメー何してんだ!」

「なまえ、お前のことも愛してるぜ。だけど、神楽も月詠も…俺のハニーだ!」

「……」

「今はもう、お前だけの銀さんじゃ…」

「死ねェェェ!!!」


銀時に無数のクナイを打ち込み、背を向けた。月詠の見解によると、大量の煙を吸い込んだせいで、その辺の理性が飛んで、誰振り構わずといった形になってしまったのではと。これ以上見ていられなかった。銀時に手を掴まれ、顔を真っ赤にする月詠に、変わらず惚けた顔で月詠たちを見つめる銀時に、いたたまれなくなってしまった。…わかっている、愛染香のせいでこうなっていることくらい。わかっているのに。


「なまえ、銀ちゃんは…!」

「ごめん、神楽。わかってる。わかってるんだけど…どうも理解が追いつかなくて」

「なまえさん…」


私のことは気にもとめず逃げ惑う女たちのケツを追っかけ回している銀時に、私は大きくため息をついた。銀時と出会ってから、アイツの瞳が私以外のモノを映しているのを見たことがない。しつこいくらいの愛情表現も、今は私だけに向いているわけじゃない。愛染香のせいだとわかっていても、心が理解をしてくれない。と、その時消し止めたはずの愛染香の桃色の煙が、町中から上がっていることに気づいた。


「月詠、神楽に新八!ちょっとここは任せた。なんか知んねーけどあちこちで煙が上がってるから、消してくるよ」

「ま、待ちなんし!そのままではぬしも、愛染香を嗅いで…嗅いで…あれ?何でぬし、何ともないんじゃ?」


「……鼻、詰まってるから?」




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