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「で、何でお前も入ってるのかな」
湯船に浸かる私を後ろから抱きすくめるように、ほかほかと気持ちよさそうに頬を火照らせる銀時を睨みつけると、今度は嬉しそうに微笑んだ。
「だって、お前男と風呂入んの初めてなんでしょ?」
男というのは何故こうも単純な生き物なのか。脱衣所へ向かった私の後を追いかけてきた銀時は、何故か一緒に風呂に入ると駄々をこねだし、仕方なくそれを許した私が先ほどぽろっとこぼしてしまった一言。…『男と風呂入んの初めてなんだけど』それから銀時は見違えるほどに機嫌がよくなった。
「初めてねェ、ふーん、へぇぇえー」
「本当にわかりやすいヤツだな…。つーか銀時、お前髪濡れてる方がいいよ」
「何それ?遠回しに普段の天パがイケてないって言いたいワケ?」
ちゃぷちゃぷと湯船の中で銀時の指をつまんだり引っ張ったりと遊んでいた私は、首を銀時の肩にもたげて、ふぅーと深く息を吐いた。
「何ため息なんかついちゃってんの」
「何か最近平和だなーと思ってさ」
「いいことじゃねーか」
「まぁ、そりゃそうなんだけどさ。こーいう時ほど気を抜かないよーにしねーと。人生山あり谷ありだから、今が下り坂っつーことは、次にはそれと同じくらいの上り坂が待ってるワケだから」
「珍しく真面目なこと言ってやんの。どーした?逆上せちゃった?」
ここ最近は何だかんだ特記するような出来事もなければ、本当に波のない日々を送っている。全蔵や月詠に関しての悩みが尽きることはないが、それを踏まえたとしても、以前と比べると私の毎日は明るく随分と色づいている。それは他でもない、この男のおかげで。
「なまえ」
「んー?」
「例え上り坂がキツくて、途中でくたばりそーになっても俺がお前を担いで登ってやるから、お前は何も気にせず下り坂を転がり落ちてろ」
「……うん」
これ以上に幸せなことなんてあるのだろうか。好きな人が自分のことを好きで、何だか知らないけど一緒に湯船に浸かり、耳元で愛の囁きにも似た言葉を吐かれ、私はそれを素直に受け入れている。例えこの先どんな上り坂があったとしても、この幸せを糧に登りきることなんてきっと容易かもしれない。そんなことを思っていると、銀時の長い指がすべすべと私の腕を撫でる。くすぐったい動きに反射的に身体が揺れた。
「ムダ毛一つ生えてねーな」
「吉原の女はみんなそーだよ。全身脱毛してるからな」
「ふーん。どーりでどこ触っても肌触りがいいワケだ」
腕を撫でていた指が湯船に潜り、腰のあたりを撫で始めたところで、私は肩にもたげていた頭を銀時に向けて、ジト目で睨みつけた。心なしか腰に硬い異物が当たっている気がする。
「いや、もう無理!散々出しただろーが!」
「俺ももう無理なんだけど、また出そうなんだけど」
「その底なしの性欲どうにかしろよ!」
こんな時間、それも風呂場で、本日何度目になるかわからないその指に散々いたぶられて、私は性懲りも無く嬌声を上げながら、与えられるその底なしの愛を必死に受け止めた。銀時に抱かれているとき、私の幸せはピークを迎える。好きだという気持ちが高揚し、身体もそして心も、全身全霊で銀時を求めている。本当は何度も心の中で思っているのだ。ずっと一緒にいたい、ずっとこうしていたいと。
それが儚い願いだということも知らずに。
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