▼ 不機嫌なアイツ 1/2 ※微裏
「…」
もう少しで意識を睡魔へと委ねることができそうだったというのに。背後から胸を鷲掴みにされて、また私の瞼はパチリと開いてしまった。手のひらが控えめに私の胸を揉みしだくたび、ふわふわぐるぐるとした癖っ毛が首元に当たってくすぐったい。
「…まだ足りないの」
呆れたように声を出す私にその手のひらはピタッと止まった。かと思えば次に首筋を襲ったのは柔らかい唇の感覚だった。それ以上何をするわけでもなく、背後の毛むくじゃらは私のうなじ辺りに顔を埋めたまま動かない。あれから数日して退院したらしい銀時は、アポイントを取ることなく我が家に押しかけてきて、大した言葉も交わさずに私を抱いた。それも、この短時間で四回も!!!バカか?バカなのか、この猿は。こちとら明日も仕事だというのに、そんなこと構いもせずにこのバカは私の残った気力を全て奪い尽くした。不貞腐れている理由はわかっている。だけど、反論しても聞き入れないのは、銀時の方だというのに。
「俺とはずっと一緒にいてくんねーの」
もう何度目かの、このセリフ。いつまで根に持っているんだ、このバカは。そもそもコイツが想像しているような雰囲気でこのセリフを吐いたわけではない。ドラ●エ欲しさに口をついて出たデマカセだ。いやデマカセというのは、全蔵に失礼かもしれないが…。現にずっと一緒にいることは果たせなかったんだからいいじゃないか。そもそもそんな過去の話、今更何になるっていうんだ。
「もう聞き飽きたし、眠いからシカトします」
「ぐすん」
何その嘘泣き?!ていうか、どんだけ付き合えばこの話から解放されるの!?嘘でも何でも、言ってやればいいのか。ずっと一緒にいよう、なんて言葉を吐けば気が済むのだろうか。そんな言葉なんかより、共にしている今この空間を大切にする方がよっぽど意味があると思うが。
「お前、本当に俺のこと好きなの」
「いつまでそのめんどくさいモードでいるつもりなの?」
「体目当てじゃねーだろうな!?」
「こっちのセリフだわ!!!」
どの口が言うか!人の身体を弄び尽くしたやつのセリフか、それ!再び睡魔に身を委ねようと瞼を閉じるも、のそのそと私の上に覆いかぶさる銀時に、私はまた大きくため息をついた。仕方なしに薄目で銀時を盗み見すると、眉を八の字に下げて私を見下ろす瞳と目が合った。
「もう、何なの、お前。何でそんなに俺の心を揺さぶるワケ」
「ほんと私のこと好きだね」
「…お前は?」
暗闇の中、しょぼくれた表情を向ける銀時に、私は思わず破顔した。銀時だって、十分に私の心を揺さぶってくるくせに、何を言うんだろうか。
「好きだけど」
自分で聞いてきておきながら、銀時は私の言葉に少し驚いたように目を見開いた。いつまでも重くのしかかる銀時を払い除けて立ち上がった私は、風呂でも入ってすっきりしてから寝ようかと脱衣所へと向かった。
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