▼ お前のアイツ 俺のアイツ 1/1 side坂田銀時
「ありゃ、名器だ」
大江戸マートの前で購入したジャンプを捲る俺の横に座り込む、忍装束に紺色のジャケットを羽織った前髪で目元が見えないヒゲヅラの痔主というめんどくさいキャラ設定の男が、そう呟いた。またもやジャンプ争奪戦を繰り広げた後に、ふと自身の彼女についての疑問が浮かんだので、元カレのこの忍者に共感を求めたというわけだ。…「アイツの身体、やばくねェ?なんなの、あの身体」と。ジャンプから目を逸らしチラリと見下ろすと、その男、心なしか元気がない。
「ヤッてもヤッても精力衰えるどころか、湧き上がってくるんですけど、末恐ろしいんですけど、干からびちゃうんですけど」
「知らねェよ!何で俺がテメーの性欲事情の相談にのんなきゃいけねーんだ!」
「やっぱ元カレとありゃ、対処法知ってるかと思って」
「うるせー!さっさとアイツを返しやがれ!腐れ侍が」
「無理無理。もう完全にアレは俺のだし、アレ俺のこと大好きだし、イボ痔にゃ見向きもしねーって」
視線をジャンプに戻しぺらっとページを捲ると、はあぁ〜っと大袈裟にため息をついたその男。俺の彼女、なまえの元カレであり、未だになまえを追いかけストーカーと化している服部全蔵。こんなアホっぽいヤツではあるが、さっちゃんと同じ御庭番出身どころか、頭目であるらしいから驚きだ。
「なァ、オイ、ジャンプ譲ってやったんだから、なまえのことは諦めてくれねェか」
「ジャンプとアイツ天秤にかけんなよ!つーか諦めてくれって、それどっちかっつーと俺のセリフなんだけどォ!?いい加減アイツのケツ追っかけ回すのやめてくんない?俺結構嫉妬深い男なんだけど?」
「後からきたテメーの方が手を引くのが筋だろう?つーか元々俺のだしィ?ずっと一緒にいたしィ?アイツ俺のこと大好きだったしィ?」
「しつこい男は嫌われるから気をつけろよー。ま、俺はアイツと二人三脚で未来へと羽ばたくからァ、どーぞいつまでもそこで地団駄踏んでいつまでも過去にすがってろ、クソ忍者」
「テメーみてーなちゃらんぽらんに、アイツの未来託せるワケねーだろ!身の程を弁えろ!万年金欠ヤローが服部家跡取りのボンボンの俺に敵うワケねーんだ、いいからさっさと手を引け!」
いつまでもうるさいその男のケツに思い切りつま先をめり込ませると「ぎゃあぁああ!」と悲鳴を上げて四つん這いになりながら、肛門を護るように手を当てている。
「…俺ァもうダメだ。痔が悪化するわ、ジャンプは盗られるわ、好きな女はバカ侍に唆されて遥か遠くに行っちまうわ、もうダメだ…。なァ、オイ。俺の墓前にゃジャンプにボラギノール、それとアイツの写真を飾っといてくれ」
「おー気が向いたらな」
「はぁあ〜。ずっと一緒にいようって言ってたのはアイツの方だったのによォ。女っつーのはどうにもコロコロ気持ちが変わっちまう生き物だ」
「いやお前が浮気したから変わったんだと思うよ!?」
ジャンプを小脇に抱えその場を離れようとする俺の足を思い切り掴んだソイツは、恨めしそうに俺を見上げ睨みつけた。
「だが、俺ァ諦めねーからな!絶対お前さんからアイツを取り返してやるから、覚悟しとけよ!」
「ハイハイ」
俺の足を掴む手を振り払い、その場を後にした俺は何とも言い難い気持ちに襲われていた。先ほどまで毛ほども気にしていなかった元カレくんだったが、どうにも腑に落ちねェ発言をしてやがった。
『ずっと一緒にいようって言ってたのはアイツの方だったのによォ』
ふぅ〜ん、へぇええぇ〜〜〜。
アイツそんな可愛いこと言うんだァ。へー。俺にはんなこと一言も言ったことないのに、あのバカ忍者には、言えちゃうんだァ。へぇー。
むしゃくしゃする気持ちを晴らしにパチンコ屋へと向かったものの、出る頃にはすっからかんになった財布を見て、更に俺の気持ちはブルー一色になっちまった。絵に描いたように綺麗な夕焼けの空が、蔑んだ俺の気持ちを赤く照らしてくれていた。
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