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たらふくすき焼きをご馳走になり、たらふく酒を飲んだ私は、神楽と新八、それに定春に別れを告げ、吉原まで銀時に送ってもらっていた。
「それにしてもすき焼きおいしかったー。一家に一台欲しいね、新八」
「あんなメガネ、一家に一台あったらウゼーだろ」
いい年こいた酔っ払い二人はこれまたいい年こいて手を繋ぎながら、澄んだ夜空の下を並んで歩く。昼間までのもどかしさはどこへやら、繋いだ手をブンブン振りながらアルコール臭を漂わせる専らただの痛いカップルである。普段だったらありえないこの距離も、アルコールが入れば何も気にすることは無くなってしまう。怖いものだ。
「今日は楽しかったなぁ」
「あ、そう?それならよかったけどよ」
「あー酔っ払ったー!銀時のバカヤロー!」
「あんだと!?なまえのクソヤロー!」
やはり、酔っ払いというのは面倒な生き物だ。叫びながらかぶき町をふらふらと千鳥足で歩く私たちに、すれ違う人々は冷ややかな視線を向けてくる。それでも私たちは気にもせずに何が面白いのかゲラゲラと笑い合う。
「おー銀さん!えらい別嬪さん連れてるじゃねーか」
「だろォ?俺のコレよ、コレ」
「どーもォ。銀時のコレですぅ」
「オイ、銀さんが彼女だって!?てーへんだ!こりゃ隕石でも降ってくるかもしんねェ!今日は店じまいだ!」
馴染みの店が多いのか、銀時を見るなり店先に出ている客引きたちはこぞって銀時に声をかける。そして私を見るなり皆同じ反応を見せた。そんなに女といることが珍しいのか、揃って皆酷い言い様だが、当の本人は嬉しそうにデレデレとしている。と、ふと頭に浮かんだ些細な疑問。
「銀時って今まで彼女とかいなかったの」
「さァな。想像にお任せします、だよ」
「モテなさそーだもんなぁ」
「何でいないって決めつけんだよ!いたにゃいたよ!そんなん聞いてどーすんだ、どう考えてもいいことねーだろ」
「何となく聞いてみただけですぅー」
本当に深い意味はない。何となく気になっただけだ。私だって生娘なわけじゃないんだから、そんなことをとやかく言うつもりはない。現に今こうしていられているのは私なのだから。過去は過去だ。と、今まで気にしていなかったが、どんどん吉原へのルートから逸れていっている気がする。酔っ払いすぎて道を間違えたのかと、キョロキョロとあたりを見回すと、何やらピンクのネオンが眩しい通りに出てしまっている。
「道、間違えてねー?」
「いーや、間違えてねェ。俺たちの愛の巣はもうすぐそこだ」
「もうすぐそこって…」
銀時が指をさした先にあった建物の看板には「ホテル OH EDO」と記されている。どう見てもあれは我が家ではないし、もちろん万事屋でもない。ただのラブホテルである。がっちりと握られた手を振り払おうにも、全く解けそうにない。
「何で!?いや明日仕事だから、無理だから帰るから!」
「っせーよ!!テメーだけ気持ちよくなりやがって!もう限界なんだよ!もうちょっと出てんだよ!」
「きたねーな、出すんじゃねーよ!」
「お前がドスケベヅラ見せるからだろーが!」
「見せてねーよ!」
繋がれた手を離してはもらえずに、結局ホテルに連れ込まれた私は朝まで身体を喰らい尽くされた。普段の銀時からは全く想像の出来ない底なしの精力に付き合わされて、私は文字どおりの腰砕けになってしまった。絶倫もいいとこだ。見事翌日の仕事に寝坊してしまったのは言うまでもないし、もちろん月詠にもこっぴどく叱られたのも、言うまでもないだろう。それでも何だかんだ地上で過ごした一日は、とても楽しかったので、多少は目を瞑ってもいいかな。…こういうところがアイツをダメにしてしまうのかもしれないが。
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