▼ 大歓喜のアイツ 1/2
「…というわけで、付き合うことになりました」
夕日が差し込む吉原桃源郷、茶屋ひのやには見慣れた顔触れ。月詠と日輪が座る向かいの長椅子に腰を下ろしていた私は、昨晩の急展開の報告をしていた次第だ。私の吉報?凶報?に日輪はぱあっと明るい笑顔を浮かべた。
「なまえ、よかったわね!やっと素直になれたのねぇ!」
「そーだね、うん…」
日輪は月詠に構わず嬉しそうに声を上げた。彼女は月詠の気持ちを知った上で、私と銀時がこうなることを月詠が望んでいるとわかっている。だから、その意思を尊重しているのだろう。決して無神経なワケではない、はず。控えめに月詠に視線を移すと、煙管を片手にまるで春のように暖かい笑みを浮かべていた。
「そうか、やっとか。まさか昨日の今日でそうなるとは思わなんだが、何はともあれ安心しんした」
「月詠」
「またぬしのデレデレとした間抜けな顔を見られると思うと、楽しみじゃな」
「私も噂の間抜け顔を早く拝みたいわ」
「あのさ、本当に祝福してくれてる?それ」
けらけらと楽しそうに笑い出す二人に、一先ず安堵して団子に手を伸ばす。月詠は変わらず嬉しそうに私を見つめているもんだから、気恥ずかしくなって視線を逸らした。何でそんなに喜んでくれるんだろう。…いや、わかってる。私の幸せが、自身の幸せだと言っていた。だから、ここまで嬉しそうに微笑んでくれているのは、わかっている。それでも、月詠の気持ちは…。
「あ、そうじゃ。午前中に服部が屯所にきたぞ」
「へ?全蔵が?何でまた」
「さぁな。昼から来ると伝えたが、また改めると言っておった」
「ふーん」
「早くも修羅場?楽しそうじゃないの」
「日輪、何でお前がそんなにわくわくしてんだ、こら」
うふふ、と笑いながら擦り寄ってくる日輪を払いながら、ぱくりと団子を頬張った。それにしても全蔵がわざわざ屯所まで来るなんて、何の用だろう。せっかく電話番号を教えたっていうのに、それじゃ携帯電話の意味ねーじゃんか。と思った矢先、袂から着信音が鳴り響く。噂をしていれば、全蔵か?なんて思いながら開いた携帯に表示された名前に、私は大きくため息をついた。月詠と日輪は揃って私を見つめる。
『もしもしハニーちゃん?』
「あ、違います。ていうか仕事中だから切るよ」
『な、オイ、待て!』
「銀時、私はあんたと違って忙しいの。やることたくさんなの」
『嘘つけ、どーせひのやでアバズレ会開いてるくせによ』
「アバズレ会って何だよ!」
視線を感じてチラリと月詠と日輪に目線を移すと、二人は顔を合わせてニヤニヤと笑いをこらえている。オイなんで笑ってんだこいつら!ただ電話してるだけじゃねーか!もはや何しても笑われるのか私は!
『ま、声聞きたかっただけだから。仕事頑張れよ』
「ホントなんなの」
『じゃーな』
身勝手に電話を切られ、ため息をついた私はギロリと月詠と日輪を睨みつけた。電話を切ったとわかった二人は、声を上げて楽しそうに笑った。
「なまえ、あんた意外と可愛いとこあるのね、ふふふ」
「口元が緩んでおったぞ」
「お前らってやつは…」
「ぬしのこんな顔を見るのは何年振りか、百華のやつらも喜ぶだろう」
「あいつら喜んでるんじゃなくて、楽しんでるだけだからね!副頭の弱み握っていじりたいだけだかんね!!」
「いいじゃない、みんなそれほどあんたの幸せを願ってるんだから」
日輪の言葉にうんうんと頷きながら、月詠はふうっと煙管の煙を私に吐き掛け、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。月詠の気持ちを私が汲むなど、余計なお世話なのかもしれない。こんなに嬉しそうに笑ってくれているのだから。その表情につられたように、私も笑みを浮かべた。
prev / next
bookmark