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「いや、ほんと、ごめん」
いつもは一人寂しく過ごしていたこのだだっ広い長屋。私は素直に謝りながら、不貞腐れた顔をする銀時の口元を消毒していた。
「せっかく助けてやったのに、ボコボコに殴るこたねェだろ」
「…いやお前があんなこと言うからだろ!」
バコンと消毒箱を閉じて眉を顰めた私に、ニヤッといやらしい顔を向けてきた銀時。私は思わず睨みつけて、ゴロンと寝転がった。
「…帰んないの?もう消毒終わったけど」
「はァ?助けてやったんだから、団子くらい寄越せよ」
「チッ、注文の多い男ー」
チョイチョイと冷蔵庫を指差すと、銀時は嬉しそうに飛びついて、冷蔵庫から団子を取り出した。寝転がる私の横に腰を下ろすと、団子を頬張り出した銀時につられたように、私も団子に手を伸ばす。
「まさかあいつと知り合いだったとはな」
「知り合いっていうか、うん。…元カレ」
「えェェェ!!!?!元カレェェェ!?お前見る目なァァァ!!!」
「うっさいバカ!今なら私もそう思うわ!」
目をひん剥いて大袈裟に驚く銀時に、私は気まずくなってプイと顔を逸らした。
…ブス専で有名なあいつは、吉原ではちょっとした有名人だった。まだ私がもう少し若い頃、突然声をかけてきたのが始まりだったっけ。
「つーか、あいつブス専なんじゃねェの?廃墟みてェな女が好きだっつってたけど」
「好みじゃないけど何かそそるって付きまとわれてるうちに、流れで、ね」
「こんなオトコ女のどこがいんだろーな、胸も小せーし」
「…殺されたいの?」
へらりと笑う銀時に手を伸ばし頬をムニッとつねって、私も微笑んだ。全蔵と離れてから、ずっと一人で過ごしてきたこの長屋に、男がいるなんて変な感じだ。
「銀時、あんたはどうなの。うちの月詠とかいかが?」
「はァ〜?あんなアバズレ興味ねェよ、俺はもっと淑やかな女が好きなのォ」
「あ、言っちゃお、死神太夫怒らせると怖いんだから」
空になった団子の串を、ポイッとゴミ箱に投げ捨ててゲームのスイッチを入れた私に、銀時はあからさまに引いた顔を向けてきた。
「おま、客来てんのにゲームやんのかよ」
「文句あんなら帰ってくんない?消毒も終えたし、団子も食わせたし、もういいでしょー」
「ちなみに何のゲームやんの?」
「ドラ●エ」
「おま、バカ、ドラ●エっつったら銀さんだよ?銀さんの人生はドラ●エで出来てるっても過言じゃないよ?ちょっと貸してごらんなさい」
そう言って、ヒョイっとコントローラーを奪って、画面に食い入る銀時に、私は思わず笑ってしまった。男友達ができたような、不思議な気分だ。男と言えば、女を遊びの道具か何かだと思ってる奴ばかりだと思っていたが、そうじゃない男もいるんだ。
「銀時、お前は変な奴だな」
「お前もな、なまえ」
私が笑いかけると、銀時も可笑しそうに笑ってみせた。
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