■ ■ ■
「旭のぶぁぁか!!!」
宮城県立烏野高等学校、第二体育館に響いた少女の声はIH予選を終え、東京遠征に向け動き始めた男子バレー部の注目を集めることになった。
「旭のばか、もう知らない!」
「旭さん何したんすか」
「旭何したんだよ」
「東峰…」
後輩、同輩、そしてマネージャーにも白い目を向けられる。
いや、俺は何もして………ない…??
叫び声の主は烏野男子バレー部マネージャー3年みょうじなまえだ。
そして、俺、東峰旭の彼女でもあるのだが、彼女に馬鹿呼ばわりされる事をした覚えはない。本当にない。
よく、"ひげちょこ"だとか大地たちに混じって言われることは多々あったが、馬鹿呼ばわりされたのはこれが初めて……だと思う。
「なまえさんどうしたんすか」
俺とは正反対の性格である西谷がなまえに原因を聞くが、頑なに誰にも話そうとしない。
どうしようか、とアタフタしている間に、ドリンク補充してくる!と行って走り去ってしまった。
どうしよう。
俺が途方に暮れている間に、俺を除いたバレー部員の"なまえの怒った原因を探す会"が開かれていた。
「旭さん結構鈍感だから、絶対になまえさんのことどっかで傷つけてますよね」
「旭は鈍感だからな」
「ひげちょこだしな」
………悪口が聞こえたのは気のせいだろうか。
「あ、今日何日?」
マネージャーの清水の問いかけに部員全員が日にちを頭の中で確認をする。
そーいや、さっきなまえにも"今日は何の日?"とか聞かれたけれど、特に何もなかったから"わかんない"とだけ返したのだけど……。
「今日、なまえの誕生日だ」
清水の一言でハッとする。
付き合って初めての彼女の誕生日。
ああ、やらかした。確実にやらかした。
「あ……さひ?もしかして忘れてた…??」
恐る恐るスガが話しかけてくるが、その通り過ぎて何も言えず首を縦に振る。
「まさかの回答…とりあえず、なまえ追いかけて謝ってこい!」
仲直りしないと部活参加させない とまで大地に言われてしまい、半分パニックになりながらなまえの後を追いかけた。
▽▲▽水道でドリンクを作っている彼女の背中に話しかける
「なまえ…今日誕生日だろ…?忘れててごめん」
許してもらえるだろうか、許してもらえなかったらどうしよう…。
彼女の作業をしている手が止まり、こちらを向く。
「…………次はないからね。」
「はい…」
そう答えれば、いつもの俺の大好きな笑顔が戻ってきてくれた。
本当にごめんなさい…。
"ばか"と言われた理由「旭に甘いなぁ、私。」
「そうかな?」
「うん、惚れた弱み…かな?」