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日誌を書き終え、職員室に届け終わり荷物を持ってくるのを忘れたため教室へと荷物を取りに戻ると、先ほど"日誌は私が出すから部活に行っていいよ"と一言かけたはずの一緒に日直をしていた菅原くんが机に突っ伏していた。
「菅原くん…?」
「ん…あ、日誌ありがとう」
「いいえの!あ、部活行かなくていいの?」
そう、声をかけると菅原くんは眉毛を下げ、どこか困ったような…悲しそうな顔をした。
ここから先はただのクラスメイトである私が踏み込んでいいラインなのだろうか。
いつも笑顔で、澤村くんを始めとするバレー部の皆んなでワイワイ楽しそうにしている菅原くんがこんな顔をするなんてよっぽどのことだろう。
「この前さすんごい1年生が入ってきてさ…。そいつセッターだったんだ」
あ、そーいや澤村くんがこの前、道宮ちゃんにそんな話をしていた。
その子たちが機能すれば、烏野は爆発的に進化する…と。
「俺は、大地たち、部員みんなと1つでも多く試合をしたい。もしかしたら、1度でもコートに立てるチャンスがあるかもしれないから、そのために上への切符をあいつらには掴んで欲しいんだ。同情されたって構わない」
そう、話す菅原くんは私が今までに見たことがないくらいキリッとした目で、でもどこか悲しみを隠した目をしていた。
「そっか、菅原くんは強いね、私とは正反対だ。」
「強い…かな?」
「うん。私なら絶対"私の方が沢山沢山練習だってしてるのに。私の方が沢山沢山仲間のことを理解しているのに。"って自分のことしか考えていない醜い考えしか浮かばないや」
そう笑うと、菅原くんはまた眉毛を下げて困ったように笑った。
「私には持ってないものを菅原くんは持ってて羨ましいや」
「俺も…さ、正直言えばさ、大地たちと全部の試合で戦って、IHに行きたいよ。俺だって、俺のトスで旭に点を稼いでほしい」
そう訴える菅原くんの目には涙が浮かんでいた。
嗚呼、この人は何故こんなに綺麗に泣くのだろう。
「でも、IHに行くためには俺じゃダメなんだよな。だから、今まで以上に周りの部員を見てアドバイスできることはしようって決めたんだ」
「そっか、やっぱり強いね菅原くん」
「そんなことないべ!話してすっきりした。聞いてくれてありがとうな!また明日」
いつもの菅原くんの笑顔に戻った頃にはもう私の心は惹かれていたのかもしれない。
恋なのか、憧れなのか、わからないけれど。
荷物を持ち、部活へと向かう彼の姿が見えなくなるまで見つめてしまっていた。
彼はなんて強い人なんだろう。
どうか心から笑えて、どうか1つでも多く試合ができて、どうか菅原くんがボールを触れますように。
私は荷物を持って帰路についた。
何か差し入れでもしようかな、と考えながら。
あなたに惹かれる理由私にないものを貴方が持っている。
だから、惹かれるのかもしれない。