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「あっちゃ〜」

ぽつぽつと降り出した雨が私に絶望を与えてくる。
今日は朝から寝坊をしてしまい、天気予報を見てこなかったため、傘なんて持ってきてもいなかった。


だって、家を出た時はカランと晴れていて、お昼休みが終わる頃までは雨が降る気配など微塵もしなかったんだもん。

同じ方向へ帰る友人は、委員会のため一緒に帰ることはできないし…。


"待つ"という選択肢もあるだろうが、生憎明日までの課題がたくさんあるのだ。もちろん学校になぞ持ってきていない。
よって、私には"この雨の中を走って帰る"という選択肢しか残されていないのだった。

「走って10分くらいだし、冬服だし走っても大丈夫かな…」


衣替えしたばかりだけれど、気にしてはいられない。
ジャラジャラとヌイグルミなどをつけたカバンを頭の上に掲げ靴をしっかり履き土砂降りの雨の中に飛び出そうとした。


そう、したのだった。


「ちょ!何してんのみょうじ!」


「あ、澤村。部活は?」


クラスの澤村大地に引き止められてしまった。
でも、澤村はバレー部で部活中の時間のはずだ。体育館競技だから天候に左右されないはずなのに。


「明日から東京遠征だから今日は俺ら休みなんだよ」


「東京!いいなぁ!!お土産!」


そう言ってカバンを足の間に挟み両手を差し出す。


「女の子が足の間に鞄を挟まない!あと、彼女にお土産買ってくるのは当然だろ?練習練習でお土産選ぶ暇なんてないかもしれないけど…」


「仕方ないなぁ〜、お土産話でがまんしてあげる!その代わり傘いーれて」


バレー部主将の大地は土日も部活で中々デートなんてしたことないから、一緒に帰りたかったりしたりしなかったり。


「さっきからその気だったんだけど?とりあえず鞄はちゃんと持ちなさい」


「はーい!じゃあ、帰ろ大地」


「久々になまえの口から俺の名前聞いた」


「大地から私の名前も久しぶりに聞いた」


一応、私たちが付き合っているということは菅原にしか言ってない。
大地を狙っている女の子は少なくない。
私のだ と宣言すればいいのだろうけれど、私の性格が邪魔して協力してもらった菅原以外には話していない。
恥ずかしいのだ。


「ほら、傘入れ」


「ん。大地ありがとう、大好きだよ」


「俺も」



相合傘
「なまえ、そろそろ公開しないか?」
「付き合ってるってこと?」
「うん。教室でもなまえのことなまえって呼びたい」